欧州連合(EU)の欧州委員会が今月、「化学品戦略」を採択した。気候変動対策を経済成長の契機とする「欧州グリーンディール」の一環として汚染ゼロ社会の構築を目指す。今後、具体的な政策に落とし込む。欧州が認める化学物質をEU域内にとどまらず、世界標準として欧州化学産業の国際競争力強化につなげる。

 グリーンディールが掲げる循環型経済の下では、化学物質管理を徹底しなければ、リユースやリサイクルを通じて有害な化学物質が人の健康や環境に悪影響を繰り返し与え続けることにもなりかねない。そこで化学品戦略では、有害物質の規制強化を打ち出した。化粧品や洗剤、おもちゃなど消費財への有害物質の使用を、必要不可欠な用途を除き禁止する。内分泌かく乱物質やPFASなどが念頭にある。有害性の評価では、化学物を併用することで生じる複合的な作用である「カクテル効果」も考慮する。

 具体化に向けて欧州REACHにおける評価法の見直しや、用途ごとに分かれている規制を消費財への使用の観点から包括化する。同時に安全で持続可能な製品設計の基準を設け、その開発や普及へ官民から資金の集中を図る。イノベーションを促し、欧州企業の国際競争力を強化するのが狙いだ。また登録時にREACHに完全に準拠した情報を提供しているのは全体の3分の1に過ぎないほか、域内に流通する化学物質由来の危険な製品の大半は輸入品であることが明らかとなっており、国境や域内で化学品規制の適用を強化する方針も打ち出した。

 欧州の化学業界は、循環型経済への転換へ向けて化学物質管理を問い直し、それを成長の契機とする化学品戦略の基本方針を歓迎している。しかし、その中身について欧州化学工業協会(CEFIC)は、規制強化に重きが置かれ、成長戦略としての視点を欠くと指摘し「グリーンディールを実現するソリューションを域外から購入することにもなりかねない」と懸念を表明した。また新たにREACHに沿った化学品規制を導入する国が見当たらないうえ、英国がEUの化学品戦略に追随する可能性も低いなか、大幅な改正は世界の環境規制をリードしてきたEUの地位低下を招く恐れがあるとも指摘した。

 化学品規制の国際調和の観点ばかりでなく「環境と経済の好循環」として、EUと同様に環境技術を競争力の源泉とした成長戦略を描く日本にとって、EUは外すことのできないベンチマークである。EU化学品戦略の具体化を巡る議論からは目が離せない。

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