自動車の電動化シフトが加速している。自動車は化学産業の主要な需要産業の一つ。欧米化学企業の間では、すでに電気自動車(EV)時代を見据えてポートフォリオを転換する動きが始まっている。

 BASFは2021年12月に、自動車用排ガス浄化触媒事業を分離すると発表した。約20の生産拠点と4000人以上の従業員で構成し、本社を米ニュージャージー州イズリンに置く。22年1月から分離の作業に入り、最大18カ月を要する見込み。顧客、パートナー、従業員のための事業継続を最優先としつつ、売却の可能性も示唆している。

 触媒部門からエンジン車にかかわる事業を切り離して、正極材をはじめとした電池材料分野に集中する。BASFは30年にリチウムイオン電池(LiB)の正極材の売上高を70億ユーロ(約9000億円)と、23年の想定である15億ユーロの4倍以上に引き上げる目標を掲げている。実現に向けて22年から30年の間に35億~45億ユーロの投資を行う方針を明らかにしている。

 デュポンは21年11月、電子材料メーカーのロジャースを52億ドル(約6000億円)で買収すると発表した。自動運転やEV関連の事業だけを残して自動車材料事業の大半を売却、買収費用に充てる。ロジャースのエンジニアリング素材は、EVや運転支援システム、クリーンエネルギーなどの分野で使用されている。デュポンは、21年7月には5G(第5世代通信)や自動運転の社会実装に重要な高性能電磁シールドと熱管理の世界的大手、レアードパフォーマンスマテリアルズを23億ドルで買収しており、高いシナジー効果が期待できる。エド・ブリーン会長・CEOは、このポートフォリオ再編によって「技術革新で世界をリードする当社が優位性を持ち、長期的に安定した伸びが見込める高成長・高価値領域に事業を集中することになった」と述べている。

 EVが主流になるのは遠い先の話ではない。25年を皮切りに欧州や米国の一部、中国など各国でガソリン・ディーゼル車の新車販売が禁止される。メルセデス・ベンツは、30年までに新車販売のすべてをEVにする。またフォルクスワーゲンは、主力のフォルクスワーゲンブランドで、30年までに欧州販売に占めるEVの割合を約7割にする。米国と中国でも5割を上回る水準を目指す。

 EVの普及には、充電インフラの整備や十分な電力の確保などが課題として指摘されている。しかし、そこに資源を集中させる企業が現れた以上、同じ市場で成長しようとする化学企業に成り行きを見守っている余裕はない。

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