鉱物の「責任ある調達」に関心が高まっている。かねて電子・電気機器産業で紛争鉱物とされるスズ、タンタル、タングステン、金の調達をめぐり、武装勢力の資金源となるなど人権侵害に加担しないことを確認する調査が行われてきた。電気自動車(EV)の急速な普及が予想されるなか、電池用のリチウムの調達に関し、自動車メーカーが対応を強化している。紛争地帯に限らず、児童労働や環境破壊など企業が配慮すべき事項は広がっている。原料鉱物の由来について、部材メーカーも“身の潔白”を証明する必要がある。

 ダイムラーおよびフォルクスワーゲンはこのほど、BASF、蘭スマートフォンメーカーのフェアフォンとの4社共同で、リチウムの産地のチリ・アタカマ塩湖で責任ある天然資源管理に取り組む「責任あるリチウムパートナーシップ」を立ち上げた。ドイツ国際協力協会(GIZ)に委託し、先住民族を含む市民社会グループ、政府機関、鉱山会社など、塩湖の、すべての関係者が参加するプラットフォームを構築し、共通の認識を得るためのパートナーシップをコーディネートする。

 アタカマ塩湖は世界最大級のリチウム産地。この地域の生態系は脆く、採掘やその他の経済活動による影響やリスクについてコンセンサスが得られていないという。水や塩水の水位変動に起因する潜在的なリスクは、生態系に悪影響を与え、地域の生活に影響を与える可能性がある。

 BMWグループは2020年初に「責任ある鉱業の保証のためのイニシアチブ」(IRMA)に自動車メーカーとして初めて参加した。IRMAは、労働者の健康と安全、人権、地域社会への参加、汚染防止、先住民の権利、透明性などの基準を定め、順守する企業を認証する組織。BMWグループは将来、この基準に従って鉱業サプライヤーを認定するとしており、アルベマール、リベント、SQMといった世界的なリチウム生産者が揃って認証所得に向けた取り組みを開始している。

 責任ある鉱物調達は、自主的な取り組みから法律の下での義務になろうとしている。欧州委員会が昨年12月に示したバッテリー指令の改正案では、蓄電池のサプライヤーにコバルト、天然黒鉛、リチウム、ニッケル、さらに、これらを原料とした化合物について調達先に対し、環境、人間の健康、労働安全、人権、地域社会の生活などへの悪影響がないかを調査し、欧州委員会が認めた適合性評価機関による第三者検証を受けることを求めた。部材を納める化学企業も、適切に対応しなければ存続が許されない。

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