新エネルギー車(NEV)の主戦場となっている中国で、競争環境が激変している。自動車メーカーや新興ベンチャーに加え、インターネット検索最大手の百度(バイドゥ)やネット通販最大手のアリババ集団が自動車大手と連携、スマートフォン大手の小米(シャオミ)も参入に意欲を示している。中央政府の次世代車シフト対応にともない、素材メーカーの勢力図も一変する可能性がある。

 中国政府は、2060年を前に二酸化炭素(CO2)の実質排出量をゼロにするカーボンニュートラルを宣言。切り札に、人の移動やモノの輸送にともなう温室効果ガスの排出削減、次世代車の普及を掲げている。具体的には、25年をめどに新車販売の2割程度を電気自動車(EV)などの環境対応車にし、半分を条件付きの自動運転車にする。今後、自動運転が必須となれば、IT大手は自動車市場の主導権を握れるとみて続々と参入姿勢を示している。

 アリババは、中国自動車大手の上海汽車集団とEVの高級車ブランド「智己汽車」を立ち上げる。上海汽車が過半を出資して22年にも第1弾としてセダンの販売を開始する。EV大手の米テスラが上海工場で生産する「モデル3」の販売が好調なこともあり、上海汽車はアリババとの連携で対抗する。

 今年1月に、同じく中国自動車大手の浙江吉利控股集団との提携を発表したのが百度だ。同社が過半出資する合弁会社を設け、自動運転技術を搭載したEVの独自ブランドの製造販売に踏み出す。また現地報道などによると、小米もEV参入に強い意欲を示しているという。

 自動車の競争条件がCASE(つながる・自動運転・シェアリング・電動化)に移り変わるなかで、情報通信技術が市場勢力図を塗り替えるといわれてきたが、IT企業の参入は、それを如実に表している。米アップルも既存メーカーへの生産委託を進めており、中国ネット大手の騰訊控股(テンセント)はグループ会社を通じて自動運転の技術開発を進めている。

 IT企業が自動車市場で存在感を高めるなか、日系企業が影を潜めているのは気がかりだ。日系素材メーカーの多くは、これまで設備投資や販売戦略の中心を日系自動車メーカーに据え、中国で販売が好調な日本ブランドに牽引され、好業績を維持してきた。ただ、中国ではNEVでなければナンバープレートの公布を受けにくくなりつつある。自動運転技術の普及にともない市場での優位性が一変する可能性を孕む。素材企業もサプライチェーンの変化を見据えた戦略の立案が必要だ。

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