新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、経済活動が大幅な制約を受けている。大企業に比べ経営体力のない中小企業への影響はとりわけ大きい。政府は総額1・6兆円規模で資金繰りを徹底的に支援しているが、もともと中小企業の間では後継者の不在から事業継続が危惧されていた。感染拡大の長期化も予想されるだけに、こうした中小企業が苦境に耐える気力をつなぐには、正常化した後の展望を示すことが重要だ。流行もいつかは終息する。その後、V字回復へ転じるためには、これまで日本経済を支えてきたすべてのプレーヤーが揃っていなければならない。
 中小企業は、小規模事業者とともに雇用の約7割を占めており、日本経済の屋台骨となっている。しかしながら中小企業の休廃業・解散件数は増加傾向にあり、2018年は4万7000件と、5年前より1万件以上増加した。後継者のいない中小企業は127万社にも上ると見積もられている。
 M&Aを通じた第三者への引き継ぎは、後継者のない中小企業にとって事業承継の重要な手法の一つだが、成立件数は年間4000件にも届いていない。売り案件が圧倒的に少ないことに加え、経営者にとって第三者承継が身近でなく、他者へ売ることへの抵抗感が根強いのが理由だ。仲介手数料や仲介業者などM&Aに関する情報が不十分で、経営者を躊躇させていると考えられている。
 経済産業省はこのほど「中小M&Aガイドライン」を策定した。M&Aに二の足を踏ませている原因を知見の不足とみて、約20の中小M&A事例を提示。M&Aを行うに当たって確認すべき事項や、適切な契約書のひな形も載せ、多くの中小企業にとってM&Aを身近なものとするように配慮した。またM&A支援企業への仲介手数料を客観的に判断する基準も示した。
 支援企業向けの基本事項も盛り込んだ。売り手と買い手の仲介は「一方に肩入れしている」との不信感を生みやすい。そこで支援企業には、不利益情報の開示を徹底するとともに、そのリスクを最小化することや、依頼主のセカンド・オピニオン要求を許容する契約とすることなどを求めた。商工会議所など運営する全国48カ所の事業引継ぎ支援センターと、そこに登録した支援企業に、このガイドラインの順守を義務づける。違反した場合は登録を取り消す。
 中小企業の経営者には、ぜひM&Aを積極的にとらえてほしい。終息後は、事業承継ばかりでなく、事業を飛躍させる手段としてM&Aが活用されることに期待したい。

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