急速に勢力を強めながら日本の南の海上を北上する台風10号は5~7日にかけて西日本に接近する見通しとなった。西日本に拠点を構える化学各社も従業員の安全や工場を自然災害から守る対応策に走っている。
 今回の台風10号は1959年の伊勢湾台風などに匹敵する猛烈な強さになる可能性があり、気象庁も「最大級の警戒」を呼びかけている。西日本は歴史的に化学産業との関わりが深く、祖業の地や基幹工場を抱える企業も多い。各社は台風の接近に備えて事前準備や対応策の協議を急いでいる。
 大分工場(大分市)で農薬や医薬品原薬・中間体、レゾルシン、添加剤などを生産する住友化学。台風10号の針路によっては非常体制に移行する計画など厳戒態勢を敷いている。停電が想定される場合にはプラントを停止することも視野に入れるが、非常用発電機を稼働させ保安電力は確保する手筈だ。従業員の安全を最優先し、操業を続ける場合も必要最低限の人数で対応する。
 三井化学の大牟田工場(福岡県大牟田市)では強風に備えて外部保管品の倉庫への待避など通常の対策はすでに実施済みだが、今回は安定操業の観点から問題のないプラントを順次停止する予定にしている。停電下で浸水被害の復旧作業を行うことを想定して大型排水ポンプも準備した。工場で働く従業員には台風上陸時の出退勤移動を避けるために早めの出社を指示するなど、安全最優先の対応をとる。
 三菱ケミカルも九州地域にある福岡事業所(北九州市)と熊本工場(熊本県宇土市)について、風雨の状況をみて操業停止しても問題のないプラントの停止を検討することにしている。
 宮崎県延岡市や日向市に工場群を抱える旭化成。各現場では浸水に備えて土のうを用意し、製品の浸水被害を防ぐために高い位置や安全な位置に移動、雨水対策としてシートで養生するほか、化学物質の流出を防ぐために排水弁の閉鎖の確認、強風により飛散しないよう屋外物を固定するなどの対応策を進めている。さらに建設中の現場では強風による足場や重機の転倒防止策も施す。大雨による崖崩れや出水に備え、過去の状況などを参考にして確認や警戒、早めの避難を検討する。
 宇部興産の宇部ケミカル工場(山口県宇部市)では台風10号が過去最大級で7日未明に暴風圏に入ることを想定し、4日中にプラントや倉庫、事務所などで必要な風雨対策を実施する。台風の動きによってプラント停止も検討するほか、交代勤務者の増員など全停電を考慮した人員配置を行うことにしている。山口県宇部市と福岡県苅田町にあるセメント工場では、台風上陸の際は従業員を自宅待機として、最少人数で操業を続ける。
 デンカの大牟田工場(福岡県大牟田市)は台風上陸時にバッチ生産方式のプラントの操業を停止する方向で準備を進めている。さらにパレット積みの出荷待ち製品は足場でかさ上げして浸水を防ぎ、出荷に停滞をきたさないようにする。操業を継続する連続プラントには保安要員を配置し、緊急時に迅速な対応がとれるようにする。福岡市内にある支店は7日は在宅勤務として、取引先にも連絡を入れている。
 大陽日酸は九州地域にある酸素、窒素、アルゴンを作る空気分離装置(ASU)については操業を継続する一方で、台風10号の上陸が予想される7日はタンクローリーによる液化ガスの納入は行わない方向で需要家と調整中。半導体向け特殊ガスを生産する子会社ジャパンファインプロダクツ(川崎市)の北九州工場(福岡県北九州市)は7日の操業と製品納入を停止し、従業員は自宅待機とすることを決めた。
 東海カーボンは7月の九州豪雨で被害のあった田ノ浦工場(熊本県芦北町)について、5日中に生産や操業に関係のない設備を停止した上で、新規の生産は行わず、浸水対策や排水能力の確保、設備などの固定といった必要な風雨対策を実施する。台風の動きに合わせて最接近時は可能な限り生産活動を停止するほか、工場内は対策本部と保安要員のみとすることで従業員の安全を確保する。
 山口県周南市に主力生産拠点の周南製造所を構えるトクヤマでは通常の台風対策を念入りに行った上で、台風情報を集めて全製造部に提供し、安全対策実施の指示を出し、各部署での適切な対応につなげる。さらに製造部では現場の物品飛散防止、足場解体などの安全対策や養生、高所作業中止などの必要な対策を実施。台風通過後は各製造部で害の有無や状況の確認・報告を行い、被害の発生時には適切な対応をとることにしている。
 日本ゼオンは、周南市域が6日の15時ごろに強風域に入り、7日朝に山口県に最接近するという現時点での気象庁予想に基づき、6日から7日いっぱいにかけて徳山工場(周南市)で一部のプラントを除き操業を停止する。同工場はスチレンブタジエンゴム(SBR)など合成ゴムを製造する。運転再開は8日の朝から順次行う予定。台風の進路など状況をみながら、継続勤務による操業人員の調整も行っていく予定だ。
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