昭和電工が不況抵抗力を高める体質づくりを急ぐ。2000億円の事業売却を含む資産のスリム化、210億円以上のコスト削減策を3年以内に実施する。日立化成の買収に新型コロナウイルス感染拡大などの経済環境の悪化が重なり、2020年12月期は900億円の最終赤字に陥る見込み。日立化成との統合による将来ビジョンを描く上で、早期に財務体質の健全化を図ることが不可欠だ。

 「経済環境の悪化に対する抵抗力を自助努力で向上させる」。森川宏平社長は12日の会見でこう語った。20年12月期に過去最大の最終赤字を計上する見通しを同日公表し、経営体質の強化を急ぐ方針を示した。

 今期は日立化成の買収関連費用で482億円、21年中に閉鎖予定のドイツの黒鉛電極工場に関する特別損失47億円を計上。ここに新型コロナや原料・製品市況の低下といった経済環境悪化の影響として700億円がのしかかり、営業損益を圧迫。森川社長は「仮に来期も今期と同じように影響を受ければ、のれん償却後の営業損益で40億円のマイナスが現状」と説明する。

 不況抵抗力を高める具体策として、3年で3000億円規模の資産スリム化を実施する。半導体関連など成長投資を継続しつつ、内容を厳選することで今期の意思決定ベースの設備投資を500億円抑制。在庫圧縮など運転資本のスリム化や、政策保有株の売却によっても22年までに450億円を圧縮する。

 2000億円を目標にノンコア(非中核)事業の売却も進める。森川社長は「(昭和電工と日立化成の間で)非中核事業の区別の仕方が明確になってきた。具体的に進めている案件があることは事実。交渉次第だが、実現のスピードを高める」と述べた。

 両社の統合に伴うコスト削減で200億円以上、21年末までに予定する本社統合でも10億円以上を積み上げる。コスト削減効果は日立化成に関わる部分が大きいといい、21年に約半分、残りを22年までに顕現化させる計画。森川社長は「それ以外の案件も出ている」と語り、コスト削減額の上積み余地があることも示した。

 通期の見通しには日立化成の20年7~12月期業績も反映し、売上高は2800億円、営業損益は200億円の赤字を見込む。のれん等の償却費で187億円、子会社化に伴う売上原価調整という一過性の費用で118億円を計上することが響く。

 日立化成の主力事業では情報通信関連がほぼ計画通りの数字を上げる。自動車関連は新型コロナの影響で足元は苦戦するが、新規車種向けの製品が下期から徐々に立ち上がるという。森川社長は「情報通信、自動車関連は市場の成長が見込まれる分野であり、両社の成長の中心。来期以降は大きな心配はしていない」と語った。

 日立化成の買収に伴うのれんは資産評価中のため暫定値ながら約6000億円で、これを20年近くで償却する予定だ。統合によるコストダウンやシナジー効果を掛け合わせることで収益性は高い水準が見込めるとして、竹内元浩最高財務責任者(CFO)は「近い将来に減損が起こるとは判断していない」と述べた。

 20年12月期は日立化成の買収が寄与するも、売上高予想は前期比5・9%増の9600億円。昭和電工単独では2300億円の減収になる計算だ。

 半導体向け高純度ガスが先端半導体の増産を受けて前期比15%伸び、ハードディスクも在宅勤務の広がりによるデータセンター需要の拡大、5G(第5世代通信)の普及を受けて堅調に推移する。一方で、黒鉛電極や石油化学、アルミニウムなど幅広い分野で新型コロナの影響が及んだ。だが竹内CFOは「新型コロナの影響は上期で底を打ち、下期から大幅な増益を見込んでいる」と語った。

 黒鉛電極は新型コロナの影響で粗鋼生産が大幅に減少し、電炉鋼メーカーの在庫調整が20年末までかかると見込む。厳しい事業環境の中で、昭和電工はドイツ工場の閉鎖を決め、各国工場でも社員の一時帰休によって生産能力を最適化。上期苦戦の要因として価格高騰時に購入した原料(ニードルコークス)の在庫を抱えていたことがあったが、これについても在庫評価額の切り下げを実施した。

 一連の施策によって、下期からは歴史的低水準である半期6万トンの生産でも、損益が均衡するまで損益分岐点が下がるという。21年以降は原料価格も下がるためにスプレッド(原料価格と製品価格の差)は現在と同水準が確保できるとみて、生産が1万トン上振れすると40億~50億円の利益が出せるという。21年の黒鉛電極の営業利益について、森川社長は「100億円前後は十分に可能」と語った。

 石油化学も今期は原料ナフサ価格の急落による在庫評価損(受け払い差)が85億円発生した。ただ大分コンビナート(大分市)はアジアに近い立地を生かして基礎化学品の輸出割合を増やすなどし、7月以降はフル稼働を続ける。一時1トン当たり200ドルを割ったナフサ価格も現在400ドル台に回復。下期は50億円の営業利益を稼ぎ、通期でも10億円の営業黒字が確保できるとみている。

 半導体向け高純度ガスは先端半導体の多層化で1チップ当たりの使用量が増え、21年も年10%の伸びを見込んでいる。半導体メーカーがアジア地域で積極投資を続ける中、市場の成長に対応する安定供給体制を整える。ハードディスクもデータセンター投資の拡大を受けて21年以降についても過去最高の出荷量を見込んでおり、旺盛な需要に対応する生産体制を構築する。日立化成の情報通信事業については台湾新工場の稼働や次世代製品の開発で半導体や5G需要の伸びを捉える。

 「経済、社会の大きな変化が起こるタイミングでの統合は、当社グループにとって進化のチャンス」。この日の会見で、森川社長は日立化成との統合により目指す将来ビジョンも示した。それが顧客の多種多様な要求にワンストップで応える「ソリューション提案型のビジネスモデル」への転換だ。

 その実現に向けて森川社長が示した総合戦略の柱が、「材料ポートフォリオ戦略(幅広い素材・製品のラインアップ)」「サプライチェーン統合戦略(素材から評価までの包括的なソリューション)」「AI/IoT戦略(最先端技術による研究開発の高速化)」「イノベーション戦略(市場、顧客動向に基づく技術ロードマップの策定とリソースの最適配分による高度な顧客ニーズへの対応)」の4つだ。

 例えば半導体や自動車、リチウムイオン2次電池(LiB)材料分野では、両社の製品を組み合わせることで市場での優位性が高められる。そこで得たニーズを研究開発に迅速にフィードバックし、両社の技術を掛け合わせることで新たなソリューションが提供できる。自動車材料では車の軽量化や高機能化につながる外装モジュール部品の検討に着手するという。

 日立化成が得意とする半導体向け研磨剤(CMPスラリー)、プリント基板材料の銅張積層板は、昭和電工の素材技術を組み合わせることで高性能化が可能で、生産設備の相互融通で生産能力も最適化できるという。両社の事業領域で活用する計算科学、統計解析を相互に適用することでの研究開発サイクルの大幅な短縮も狙う。

 昭和電工は日立化成を21年秋をめどに実質統合し、その後、23年初めに完全統合する計画だ。森川社長は「イノベーションのポテンシャルを有する企業グループとして進化する姿を示す」と意気込みを語った。

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