旭化成は25日、経営説明会をウェブ会議方式で開き、新型コロナウイルスの感染拡大など取り巻く環境の変化を踏まえてヘルスケア領域に経営資源を優先投入する方針を示した。小堀秀毅社長は「新型コロナによって人の『いのち』『健康』が持続可能な社会の実現に極めて重要と再認識させられた」として、「市場の成長性とニーズが高い分野に重点的に対応することで環境変化への対応力を高める」と述べた。

 「ヘルスケア領域に優先的にリソースを投入して成長を加速させる」。小堀社長が短中期的な成長ドライバーと位置付けたのがヘルスケア領域だ。素材事業を束ねるマテリアル領域が新型コロナの影響もあって厳しい中、多角化経営の強みを最大限生かして荒波に立ち向かう構えだ。

 除細動器や人工呼吸器などを手掛けるクリティカルケア(救命救急医療)事業の深掘り、前期の医薬企業買収で橋頭堡を築いた米国展開を推し進める。小堀社長は「色々な疾患で予防、診断、治療、アフターケアの一連をソリューションでつなぐ重要性が高まっている」として、コロナショックを経て生まれる新たな医療ニーズの取り込みにも力を入れる。

 会社全体としては財務規律を重視して投資案件は厳選し、従来以上に投資効率の管理も徹底する。小堀社長は「不測の事態が起こるサイクルや頻度、地政学的リスクも高まる可能性がある中で、キャッシュ重視で投資効率を高め、収益を上げる方向に向かわざるを得ない」と語る。

 2021年度までの中期経営計画の中核に据えた「サステナビリティー(持続可能性)」への貢献、デジタル変革(デジタルトランスフォーメーション、DX)や働き方改革などの生産性向上、新たなニーズやトレンドへの対応により高い確度で事業成長が見込める分野などの基準を設けて投資を検討していく。

 DX関連では20年度末の予定で、デジタル系エンジニアを集めるオープンイノベーション拠点を都内に開設する計画も併せて公表。21年度末までにデジタル系の「プロフェッショナル人財」を150人体制まで拡充する。

 同社は現中計3年間の設備投資・投融資を前中計比で2割増の約8000億円と設定し、初年度の19年度は4000億円以上を意思決定した。米中貿易摩擦の長期化や自動車販売の減速、新型コロナのまん延といったリスクが相次ぎ顕在化する中で「数字にこだわる状況ではない」として、「『入るを量りて出ずるを制す』でキャッシュインの状況をみながらキャッシュアウトも個別に判断する」と述べた。

 「現在を社会全体の革新の機会と捉え、大きな変化に対し自発的に行動することで成長につなげる」。小堀社長は舵取りが難しい現下の状況を新たな成長機会と位置付ける姿勢も鮮明にした。

 次世代通信規格(5G)の普及やコロナショックによる衛生意識の変容、生活や仕事の行動様式の変化などにより、電子材料や消費財など多くの素材で成長が期待できるという。現に深紫外線発光ダイオード(LED)は、新型コロナによる殺菌ニーズの高まりを受けて北米市場を中心に引き合いが高まっている。住宅領域でも在宅医療や在宅勤務に適したスマートハウスなどの需要が見込めるとみる。

 自動車の電動化や自動運転などの「CASE」対応でも、新型コロナを受けて抗菌・殺菌効果のあるシートがシェアリングカーに標準搭載される可能性もある。小堀社長は「大きな変化の中にはビジネスチャンスがある。ここに経営資源を集中し、いち早く成果を出していく」と語った。

 低採算事業などの構造改革も推し進める。成長性や収益性、利益規模・効率、事業特性などを加味して事業の状況を年2回評価し、その結果を基に重要テーマを選定・検討する。小堀社長は「これまでの実績重視から、今後は市場の変化、将来見通しを重視する分析・評価に切り替え、事業ポートフォリオ転換を加速させる」と述べた。

 マテリアル領域の中でも、安定的な収益性の面で課題が残るのが石油化学製品などの基盤マテリアル事業だ。世界的な景気拡大を追い風に17~18年度は利益を伸ばしたが、米中貿易摩擦や新型コロナの影響が重なり19年度は16年度並みに逆戻りした。小堀社長は「厳しい環境での利益規模、それに見合うリソース配分かどうか精査する」として、エチレン設備を共同運営する水島コンビナート(岡山県倉敷市)で用役やプラント保全、物流といった機能まで含めて他社との連携を検討する考えも示した。

小堀社長

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