ものづくり産業、製造業なのだから、素材、部材、製品、それらをひっくるめてモノを通じて社会貢献するというのは、当然のことだろう。近年のSDGsに関しても、モノやその複合物としてのソリューションを通じて課題解決につなげるという企業の動きは活発化する一方であるようだ▼一方、人間の生活の安心・安全、満足感、幸福感というようなものは、モノだけからは得られない。芸術文化など精神的な活動やその受容によって、人間の生活は物質的かつ精神的な幸福感を得られるはずだ▼そう考えると、精神的な満足に資する芸術文化への貢献である企業のメセナ活動が、いまあまり話題にならないのはどうしたことか。30年ほど前と比べると下火になった感は否めない▼企業メセナ協議会が今年3月公表した2019年度の企業メセナ活動費総額をみると、それを金額の面から裏付ける。1社平均活動費は91年は約1400万円だったが、19年は約740万円と半減近い落ち込みだ。この間、景気変動などに連動して減少と増加を繰り返しているが、盛り上がっていくトレンドとは読みにくい▼美術や映画、音楽、そして舞台や文学。企業が貢献できるメセナの範囲は広い。そしていま、人の心には閉塞感が影を落としている。企業メセナが果たせる役割は大きいはずだ。(21・12・15)

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