東京ではいま、あじさいが色鮮やかに咲いている。日本人の好きな花の代表格といっていいだろうが、同じく代表格の桜や梅は今年は鑑賞する余裕がなかった。いまが盛りのあじさいにはやっと、本当にやっと心を向ける余裕がでてきた▼あじさいは日本原産である。そして、奈良時代から記録があるにもかかわらず、意外にも花としての人気がほとんどない時代が長かったという。現在のように広く人気が出るようになったのは、第二次世界大戦後のことだというから驚く▼戦後に人気が出てきた理由の一つが観光資源として注目されたこと。たしかに全国には、あじさいの名所が数多くある。たとえば関東では鎌倉の明月院と長谷寺が有名。明月院は「あじさい寺」といわれるほどだ▼あじさいの名所は寺に多いが、それはあじさいが死者に手向ける花だと考えられたことに由来するそうだ。とくに流行病が発生した地域では多く植えられたという。そして今では、明月院のように観光名所として地域の集客効果の向上にも一役買っている▼「明月院ブルー」に似た色のあじさいを一鉢買ってきて、書斎に飾った。テレワークで疲れた目に、このブルーはとてもやさしい。花が終わったら鉢から庭に植えかえて、来年の花季を楽しみに待とう。その頃、コロナはどうなっているだろうか。(20・6・24)

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

精留塔の最新記事もっと見る