「産業遺産」といわれて真っ先に思い浮かぶのは何だろう。2014年に世界遺産に登録された富岡製糸場などだろうか。産業遺産の定義が定まっているわけではないようだが、産業が勃興して以降の産業や技術に関わる建造物、機械、道具、文書など、と思っていれば的外れではあるまい▼経産大臣が認定した「近代化産業遺産」などがあるが、各分野の学会が認定している多種多様な産業遺産がある。日本化学会が認定する「化学遺産」のほかにも、たとえば産業考古学会の「推薦産業遺産」、機械学会の「機械遺産」、土木学会の「土木遺産」などがある▼化学遺産の話はまたの機会ということにして、きょうの本題は機械遺産のひとつ「カルーセル エルドラド」である。昨年夏に94年の歴史に幕を閉じた東京の遊園地「としまえん」にあった回転木馬だ。アール・ヌーヴォー様式の装飾が施された芸術作品と機械技術の見事な融合である▼東京はじめ関東に住んでいる人なら、この回転木馬に乗った、あるいは乗せた記憶を大切にお持ちの方もたくさんいると思う。しかし、この木馬たちの行く先はまだ決まっていないようだ。あまり放っておくと、ペガサスになって空に翔びたっていくぞと心配したくもなるが、それはあまりに童話じみた想像と笑われちゃいそうである。(21・7・21)

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