アイポア(東京都渋谷区)は、半導体薄膜と人工知能(AI)を組み合わせた独自の微粒子分析技術を新型コロナウイルス検査に適用することを目指す。微粒子が半導体薄膜に開けた微細な孔を通過する時に生じるパルスを計測、その波形を切り出して学習ずみAIが識別する。唾液検体による臨床研究では約7分という短時間でPCR陽性一致率95%と高い識別性能を実証した。直野典彦代表取締役は「従来の手法では実現できなかった短時間・高精度の検査技術として実用化を急ぎたい」としている。

 アイポアの設立は2018年。内閣府のImPACT(革新的研究開発推進プログラム)の一環として大阪大学が中心となって開発した「ナノポアによる1粒子識別技術」の実用化を目指している。

 ナノ粒子計測技術は創業者で非常勤取締役である谷口正輝・大阪大学産業科学研究所教授の研究成果。微細な孔を開けた、窒化ケイ素薄膜を表面に形成したシリコン基板をセンサーに用いる。電荷を持った対象粒子が孔を通過する際のイオン電流の変化をパルスとして読み取る。その波形信号を増幅してデジタル化、アイポアが開発したAIソフトウエアで解析・識別する。

 センサーモジュールは朝日ラバー、NOKと、微粒子計測装置はアドバンテストと協力して製品化した。昨年10月、理化学研究向けの微粒子分析ソリューションとして発売したが、「社会的な意義を考えて新型コロナの検査向けに実用化することを最優先する」(直野氏)ことにした。

 日本医療研究開発機構(AMED)によるウイルス等感染症対策技術開発事業の下、阪大と共同で実施した唾液検体44例の臨床研究ではPCR検査との陽性一致率95%、陰性一致率92%。識別時間は合計約7分で、前処理2分、計測5分、AI解析1秒だった。現在、汎化性能を評価中で、700例以上でも同水準の結果が得られている。

 新型コロナウイルスの検査手法はPCR検査と抗原検査の2種類。PCR検査は高精度だが、判定には早くても3時間程度かかる。抗原検査は判定時間は約30分と短い半面、精度に課題がある。アイポアの技術は短時間・高精度だけでなく、試薬を使わず専門的な技能も不要といった優位性がある。

 「新型コロナ検査はワクチンと同様に規模が求められる。量産に向けて安定的な精度確保など提携各社と課題解決に取り組んでいる。できるだけ早く空港など現場での実証実験を始めたい」(直野氏)。

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