新型コロナウイルス感染症への治療効果が期待される富士フイルム富山化学の抗インフルエンザ治療薬「アビガン」を巡り、サプライチェーン(SC)国産化が進む。27日、JNCはアビガン向けに中間体を供給すると発表。三谷産業と日医工の合弁アクティブファーマも原薬の受託製造を始める。国や自治体も支援の検討に乗り出しており、官民挙げての取り組みが相次ぐ。

 新たにアビガン中間体を供給するのはJNC。水俣製造所(熊本県)にある既存設備を活用し、今月末から製造する。富山県内に事業所を構えるアクティブファーマの場合、7月から原薬を製造する。JNC同様、富士フイルムからの打診に応じて、アビガンの安定供給を支える。

 製剤でも受託製造の動きが続く。ダイトは富山県内の工場で7月に体制を整え、9月に生産をスタート。シミックホールディングス(HD)も静岡工場(静岡県)で行うことを公表している。

 いまだに特効薬のない新型コロナウイルス感染症に対する切り札の1つとしてアビガンに注目が集まるなか、内外の需要拡大を見据え、富士フイルム富山化学は体制整備を急いでいる。3月上旬で月産4万人分だった能力を順次増強。9月までに7倍強となる同30万人分へ引き上げる。

 能力を高める上でカギを握るのが、原料や中間体、原薬の安定確保だ。関係者の情報を総合するとこれまで輸入による製品が多かったが、中国で後発医薬品(ジェネリック医薬品)の量産が始まったことで、入手が難しくなってきているという。

 そこで、富士フイルムは今月、グループの富士フイルム和光純薬の愛知工場(愛知県)で中間体、富士フイルムワコーケミカルの広野工場(福島県)で原薬の増産を決定した。同時にアビガン自給体制の構築を志向する政府も、富士フイルムとともに、国内化学メーカーなどにSCへの参画を呼びかけていった。

 まず呼応したのがデンカ。2日、青海工場(新潟県)で原料となるマロン酸ジエチルの供給再開を明らかにした。「政府から要請があった」(同社)といい、休止設備を再稼働する。宇部興産も原薬の骨格を担う中間体の再生産を行う。2009年から10年にかけて供給・製造していた。カネカや富士化学工業(富山県)も名乗りを上げている。

 富士フイルム富山化学が工場を置く地元の富山県も支援に乗り出す考えだ。具体的な内容はこれからだが、「国の交付金を活用」(くすり政策課)し、原料調達などを支援する。とくに「中間体のニーズが高い」(同)とのことで、16日には説明会を開き、県内の関連企業に協力を呼びかけた。

 政府もアビガンの設備投資を補助する方針を打ち出している。富山県のくすり政策課の担当者は「国の政策を補完する形で支援できれば」と語る。

試読・購読は下記をクリック

新聞 PDF版 Japan Chemical Daily(JCD)

新型コロナウイルス関連記事一覧へ

ライフイノベーションの最新記事もっと見る