米国食品医薬品局(FDA)は7日、米バイオジェンとエーザイが共同開発したアルツハイマー病(AD)治療薬「アデュカヌマブ」を新薬承認した。AD治療薬で約20年ぶりの新薬。ADの症状進行を抑制する効果が期待されている。開発中止からの承認申請、専門家の不支持や審査の遅れなど紆余曲折を経て、注目の大型新薬が実用化にこぎ着けた。承認条件として追加の臨床試験を行い、有効性の再検証が求められる。販売価格は投与1回約47万円、年間610万円。ピーク時売上高1兆円以上の超大型化も期待されている。

 同剤は実用化の可能性が二転三転しながら開発されてきた。最初は承認申請前の第3相臨床試験(P3)で有効性を証明するのが難しいと判断され開発中止。だが、その後の解析で、一部の投与群には有効性が見込めるとして方針を一転し、開発を再開。FDAは承認に前向きな評価をしていたが、昨秋の外部専門家の審議では、エビデンスが不十分として否定的な見解が出ていた。追加データを解析するためFDAの審査期限が3カ月延長され、6月7日が期限だった。

 アデュカヌマブは、ADの原因物質とされる「アミロイドベータ(Aβ)」に結合することでAβの脳内蓄積を減少させる作用を持つ。FDAは声明で、同剤を承認した根拠として、Aβ蓄積を減少させるエビデンスが「患者のベネフィットを予測するエンドポイントとして合理性があると判断した」と説明した。

 だが臨床上の効果は疑問が残っており、承認申請の根拠としたP3試験2本のうち1本は有効性の主要評価項目を達成していない。FDAは承認条件として、改めて臨床試験を実施して、臨床的有効性を確認することを求めた。

 米国での製品名は「アデュヘルム」。価格(卸売販売価格)は月1回投与で4312ドル(約47万円、体重74キログラムの場合)、年間では約5万6000ドル(約610万円、維持用量)。実際の治療効果に応じて価格が決まるバリューベースの価格設定も一部の支払機関で導入する予定。

 日本ではバイオジェンとエーザイが厚生労働省に昨年末に承認申請したことを公表している。追加の臨床試験を要件とした米国での承認を、日本の審査当局がどう受け止めるかが注目される。脳内のAβを測定する診断薬の普及もあわせて求めれそうだ。高額な薬価だけに、社会が新薬を受け入れやすい仕組みを製薬企業をはじめ多くの関係者が知恵を絞る必要がある。

 Aβを標的とする治療薬は多くの製薬企業が開発に失敗してきたが、アデュカヌマブの承認により「Aβ仮説」が初めて実証された。また、極めて高い医療ニーズがあれば、申請前の臨床試験で完全な有効性データがなくてもFDAが新薬承認する可能性が示された。約20年ぶりの新薬承認が、AD治療薬の研究開発を再び活発化させる機運を高めるかもしれない。

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