コロナウイルスから人々を守るフェイスシールドを開発・製造し、必要な場所に寄贈しているベンチャー企業がある。桑田健一氏が4年前に創業したDOUBLE-H(ダブル・エイチ、川崎市)だ。「知名度もなく、資金も必要なためクラウドファンディングで資金を集めることにした」(桑田社長)。14日までに100万円集まれば、5000個のフェイスシールドを寄贈する目標を立てた。
 一方で、「フェイスシールドは今はもう、本業になっている」とも語る。コロナ禍で社会が一変するなかで開発したフェイスシールドに「過去の人生や、人とのつながりが全部生きている」という。本業ではないはずの社会貢献を通じ、みえてきたものとは……。

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 - 何が桑田社長を動かしたのでしょうか。

 「ダブル・エイチとは別に、LEDモジュールなどの光学製品を国内で開発、販売するEFFECT(イフェクト、東京大田区)という会社も経営している。照明・看板、工業用照明、植物育成などの用途に最適な光源を提案する仕事だ。実は、こっちが本業だ」
 「2011年の大震災のときなど、有事の局面で社会貢献できる企業を尊敬していた。自分達には何ができるのだろう、と考えていた。今回、コロナショックが起きて、フェイスシールドなら開発できるかも知れないと思った。イフェクトで一緒に仕事を進めているデザイナーさんとの会話や、医療現場の状況を伝えるニュースなどがきっかけだった。4月上旬くらいだったと思う。実は4年ほど前、イフェクトで新たな事業展開のための印刷機や加工機を導入していた。今回、それが活躍してくれた」

 - 短期間に開発できた理由は。

 「幸運にも総合病院のドクター、歯医者さん、自治体の方、教育現場の方など、これまでの知人、恩人やその紹介もあり、さまざまな人達にニーズ、助言を聞くことができた。それをもとに2日に1度のペースで改良を加え、約1カ月で量産品を完成した」
 「最初の試作品でも完成度が高いと思っていたが、現場ごとで求められるニーズが違うことが分かった。例えば医療現場では、飛沫などが入り込まないように、額の部分の隙間が完全にないものが欲しい、また使い捨てのためコストは限りなく安く。一方で、そうしたシビアな環境ではない一般用の場合、暑さ対策や曇り止めなどの機能を付与したり、なによりスタイリッシュさにこだわった。このため医療用と一般用の2種類を用意させていただいた」

 - 5000個寄贈するのに100万円で採算が合いますか。

 「完全な赤字だ。200万円集まれば1万個作るのですか、と聞いてくる方もいる(笑)。それでも7月14日を待つことなく量産をスタートし、5月中旬から順次、寄贈を開始した。必要な時、必要な方々に届けなければ、意味が薄まってしまうからだ」
 「実は、5月に入って多くの企業がフェイスシールドの開発を発表し、医療用途では充足しつつある状況となり、当社が作る必要があるのか、との考えも浮かんだ。一方、ウィズコロナの世の中では、医療用以外でもフェイスシールドが必要になる。実際にどこまでの対策が必要か分かっていない部分があるが、社会活動が再開していくなかで、一般の人々もこういうものが必要になるのでは、と思った。例えば再開される学校の先生に寄贈の話しをすると、ニーズがあることが分かった」

 - 開発した“FACE SCREEN”の特徴は。

 「ヘッドバンドとスクリーン面が、ベビー服などで使われるスナップボタンで脱着できる。このため、表面のシールド部分を簡単に交換することができる。後頭部は紐止めで、サイズに合わせて装着しやすい。ヘルメットにも付けられることから建設業界からの引き合いもあった。また、ヘッドバンドの部分にはキャラクターやロゴが入れられる」
 「一般の人が装着する場合、医療用だと物々しいので、スタイリッシュさや可愛らしさ、ファッション性などの要素を付与したいと思った。紐のカラーバリエ-ションも多く揃えた。あとは、ロゴを入れてお店の人達が広告で使ったり、装着することでお店の人であることが一目瞭然になったりする」
 「ミラータイプというのも開発した。窓ガラス用のフィルムを貼ったもので、紫外線を100%カットし、遮熱効果と眩しさを軽減する機能がある。実際にフィルムの有るなしで3度Cくらい温度が違う。屋外で作業する人などに向いている」
 「本当だったら、フェイスシールドなんかしたくないし、しない方が良い。しかしコロナと付き合っていく状況が続き、しなければならないのなら、ちょっとお洒落でスタイリッシュなものがあれば、それならしても良い、あるいはしてみたい、という発想になるかもしれない。そこで、アーティストとコラボし、スクリーン面にぺインティングしたものも企画している」

 - 市販品の投入は始めたのでしょうか。

 「すでにネットショップでオンライン販売を開始したほか、顧客への営業も行っている。6月下旬には、溝の口劇場(川崎市)においてイベントを行ったミュージシャンのグループに、当社のFACE SCREENを使っていただいた。アーティストにペインティングしてもらい、Youtubeで配信するライブ活動の雰囲気にマッチしたフェイスシールドになっている」
 「劇場やライブハウスなどのイベント拠点や、そこで活動するミュージシャンなどは、コロナウイルスの影響で厳しい状況に追い込まれている。ソーシャルディスタンスを確保しようとすると、収容できる観客が4分の1程度に減ってしまい、採算が合わない。どのような対策が必要か正確には分からないが、樹脂パネル、マスク、フェイスシールドなどを駆使し、なんとか距離を縮める方法を生み出したい」

 - マウスシールドというのもあります。

 「藤沢市に最初にフェイスシールドを寄贈したとき、1、2週間くらいして連絡があった。今年は海の家が開設されず、海開きをしない。しかし、一般の人はおそらく海に来るだろうと。危険なのでライフセーバーは活動する。ただ、彼らが暑い浜辺でマスクをするのは厳しいので、マウスシールドを作れませんかと。それで、当社が作るマウスシールドをライフセーバーの皆さんにしていただけることになった」
 「ごみ収集の方々にもマウスシールドのニーズがある。結構走り回る仕事なので、息苦しくなりマスクを外してしまうケースがある。一般の住民の人達が不安になるので、ごみ収集の方々にもしていただくとのことだ。大手ゼネコンさんが、現場で働く人のためにマウスシールドを調達したというニュースもあった。夏に屋外で重労働する場合、マスクでは危ない。フェイスシールドまではいかないが、マウスシールドというのも一つの提案としてあるのかなと。こちらも“MOUSE SCREEN”として7月3日から販売を開始した。透明、ミラー、ホワイトの3種類がある」

 - どのような夢に向かって進んでいるのですか?

 「実はこの3、4年、新たな仕事をずっと探してきた。そのなかでDOUBLE-Hを設立したのは、デザイン性が高いインテリア製品でBtoCのようなビジネスを展開したかったからだ。ただ、世の中が大きく変わろうとしている今、明快にビジョンを打ち出すのは難しい。今まで必要だと思っていたものが、必要でない世の中になるかも知れないからだ」
 「そうしたなかで今回のフェイスシールドは、自分の人生の集大成ではないが、いろいろなものがここに集まったきたという感じを持っている。これまでの人生で、会社を立ち上げる前のサラリーマン時代も含め、力を貸してくださった方々との関係があってこそできたし、4年前に導入した印刷機や加工機など、新しい展開に備え準備してきたものが今回、すごく活躍してくれた。そうした巡り合わせもあり、いまフェイスシールドというものにハマったというか、そういう感じを持っている」

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