【シンガポール=中村幸岳】新型コロナウイルス感染第二波に見舞われたインド。4月半ば以降都市封鎖を敷く州も増え、5月1日には新規感染者数が40万人に達した。製油所や化学工場は生産を継続しているが、都市封鎖で外出が禁止され自動車や家電の工場も稼働を落とすなか、4月は自動車燃料油や合繊原料の内需が前月比2~3割減少。再び輸出シフトが見込まれる。モディ首相は昨年のような全土フルロックダウンは避けたい考えだが、産業界からも経済活動縮小を望む声が出ている。

 同国では5月上旬時点で、首都デリーのほか商都ムンバイを擁するマハラシュトラ、タミルナドゥ、ラジャスタン、ウッタルプラデシュなど多くの州で都市封鎖が敷かれている。

 インドの石油会社は軽油需要を指標に製油所を運営する。4月のディーゼル燃料需要は前月比2割程度減少。国営石油最大手インディアン・オイルやバーラト石油などは4月半ば、各製油所で9~8割の稼働率を保っていたが、足元7割程度まで落としたもよう。

 第二波前、化学品内需はほぼコロナ禍前の水準に戻っていたが、合繊原料などで設備稼働率に影響が顕在化しつつある。商社筋によると、インドのポリエステル(PET)需要は約800万トン。うち400万トンがPET長繊維に使われるが、4月前半に9~8割程度だった同繊維工場の稼働率は、同月後半にロックダウンで5~3割と急激に低下した。織編物や衣料品工場が、人手不足で軒並み生産を停止したことが理由。

 5月半ばまでの予定で敷かれている各州のロックダウンは、延長される可能性が高い。内需縮小で基礎化学品や合繊原料が一部スポット輸出に振り向けられているようだ。

 一方、PET樹脂や同フィルムの工場は4月下旬現在でもおおむね8割稼働を維持。化学最大手のリライアンス・インダストリーズは、ポリオレフィンや塩化ビニル樹脂、PET樹脂のフル稼働を続けているという。

 リライアンスの発表によると、グループ5割以上の従業員を在宅勤務体制とし、従業員やその家族へのワクチン接種を実施。従業員はすでに8割が1回目の接種を完了した。製油所や化学品工場は従業員を3割減らして運営し、AIを使ったモニタリングシステムで従業員の防疫手順を常時チェックしている。

 日系化学企業が多いニムラナ工業団地(ラジャスタン州)内では、各工場が稼働を継続。独BASFやエボニック・インダストリーズも、防疫策を講じつつインドにある化学品工場の操業を継続している。

 ロックダウンにともなう物流停滞も懸念される。BASFインド法人のクリシュナモハン社長によると、マハラシュトラ州などの州境ではトラック運転手の陰性証明が求められるケースがあり、物流遅延の原因になっている。またデリーで駐在を続ける丸紅インドの鈴木敦社長は「(5月初頭時点で)港湾作業や通関手続きは平常通りだが、地方選挙が終わった東海岸のタミルナドゥ州に続いて西ベンガル州もロックダウンに入り、今後物流に影響が及ぶ可能性がある」と指摘している。

 インドに寄航するケミカルタンカーやコンテナ船は一時減便されるもようで、在シンガポール化学企業によると先週、海運会社などから、シンガポール発インド向けの船積みスペースを削減する旨の連絡が入ったという。

 モディ首相は先月20日、各州政府に対し、都市封鎖はあくまで最終手段とすることを呼びかけ、経済活動を維持する姿勢をあらためて示した。2カ月に及ぶフルロックダウンで、経済が24%のマイナス成長に陥った昨年4~6月期の二の舞を避けたい考え。しかしインド産業連盟(IIC)は今月2日、経済活動のさらなる縮小を含むより厳格な防疫措置を求める声明を発表。デリーやマハラシュトラ州の新規感染者は4月末をピークに減少傾向にあるが、政府は難しい舵取りを迫られている。

試読・購読は下記をクリック

新聞 PDF版 Japan Chemical Daily(JCD)

新型コロナウイルス関連記事一覧へ

ライフイノベーションの最新記事もっと見る