人類史を新たな視点で捉え直したジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』の病原菌に関する章「家畜がくれた死の贈り物」を20年ぶりに読み返した。病原菌と文明の歴史や現代の世界秩序との関係を鋭く分析している▼インフルエンザに代表されるタイプの病原菌は、感染個体に咳やくしゃみをさせ、新たな犠牲者にうつっていく。人間にとっては「病気の症状」だが、それは病原菌から見れば進化を通じて獲得した広い範囲に伝播するための方法だという▼ならばどうして、病原菌は自分の宿主を死に追いやり、わざわざ自分の住処を奪うようなことをするのか。病原菌から見れば、宿主の死は有効な伝播を促そうとした結果の副産物にすぎず、平均して一人以上の新しい犠牲者を出せれば、最初の感染個体が死んだとしても、菌は伝播の目的を達成できると著者は説明する。インカやアステカの文明が滅んだのは、征服者たちがもちこんだウイルスによる影響が大きいことはよく知られている▼ウイルスは、細胞は持たないが、遺伝子があり宿主の中で自己を増殖していける。このためウイルスは生物か無生物かという論争もある。われわれの生命を脅かしているのは、生命体なのか無生物なのか。どちらであるにせよ、ウイルスがまたしても文明に大きな変化をもたらしている。(20・4・8)

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