エヌシーアイ販売(神戸市北区)は、自在に形状を変えられる樹脂マスクを開発した。55度Cになると熱変形する特殊なフィラメント(造形用樹脂材料)をFDM(熱溶融積層法)の3Dプリンター(3DP)で造形。加熱方法はドライヤーで十分という。製品自体の形態は板状のため造形スピードが速く生産性にも優れる。自社で保有するプリンターでの製造のほか、FDMの3DPを持つ企業などに設計データを無償公開し、飛沫防止用途のマスク不足解消に貢献していく方針。

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて開発したマスクは、フィラメントにSMP(形状記憶ポリマー)を使用。製品は楕円板状で、鼻と口の部分に通気用メッシュを設けている。SMPのガラス転移温度(Tg)は55度Cで、ドライヤーで加熱して使用者の顔の骨格にフィットしやすい形状に変形でき、温度が下がるとその形状を記憶する。違和感があれば再び加熱して形状を調整できる。メッシュ部にガーゼやキッチンペーパーを挟んで使い、マスク自体は洗浄により再利用が可能。

 造形時間は1時間に1枚と、立体造形する樹脂マスクに比べ3分の1。また「立体では角度調整が難しく、サポート材も必要になる」(同社)が、同社は設計から完成までをわずか1日で実現した。現在、欧州の取引先から受注した200個の生産に着手し、同社でも数百個の在庫積み上げを目標としている。またFDMの3DPを持つユーザーには設計データを無償公開し、SPMを供給するビジネスも開始。すでに従業員のマスク不足に悩む運送会社がこのスキームを活用したという。

 同社の事業の柱はリサイクルできるレーザープリンター用トナーカートリッジの製造販売。3DP事業には2015年に参入し、現在は20センチメートル角のワーク4台、40センチメートル角2台のFDMの3DPを保有している。マスクの生産は1日30枚が可能で、需要に応じて増産対応もしていく計画。同社ではマスク不足が深刻化するなか、「簡単に製造できるのでFDMを持つ企業などにはぜひ活用してもらいたい」と呼びかけている。

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