独エボニック インダストリーズは、シンガポールで飼料添加物メチオニンなど機能化学品を生産し、2018年にはドイツ以外で初の大規模研究所を開設。部分都市封鎖下(CB)にあっても事業活動を継続している。シンガポール法人のピーター・マインシャウゼン社長(エボニック アジア太平洋南部地域代表)にコロナ禍対応を聞いた。

▼…コロナ禍の業績への影響やCB下での対応は。

 「シリカなど自動車関連製品に下方圧力がかかっているが、現状を考慮すれば域内事業の4~5月業績は相対的に良かったと言える。感染拡大を過小評価するべきではないが、当社はこうした事態への準備を十分整えていた。シンガポールでは当局の認可のもと、メチオニンや潤滑油添加剤の生産、研究所の運営を続けている」

▼…外国人労働者の感染拡大の影響は。

 「当社の外国人労働者への依存は極めて限定的だが、生産設備の維持補修などを担う契約会社を通じて関係がある。設備の定修は最新鋭技術を導入したことと、熟練した従業員がいることで安全を十分に確保したうえで柔軟に予定を変更できる」

▼…グローバル調達・供給網の途絶が問題になりました。

 「現状、アジア太平洋地域では当社がフォース・マジュールの宣言(不測の事態にともなう一時的な製品供給不能の宣言。契約上の義務不履行にともなう法的責任は生じない)を強いられるような事態は生じていない。コロナ後もグローバル化の巻き戻しが起きることはないだろう。ただ今回、中国やインドで調達・供給網途絶のリスクにはさらされたことは事実。当社は地域的なサプライチェーンを拡充する検討に入った」

▼…研究所「アジアリサーチハブ」での活動進捗は。

 「当社にとってシンガポールはグローバルバリューチェーンの一部を構成する重要な拠点であり、研究開発でも同様だ。3D印刷材料など3領域で研究開発を順調に進めている。いずれも長期的な計画に基づくが、3D印刷領域の1~2テーマについては、従来考えていたよりも基礎研究から産業実用化までに要する時間を短縮できそうだ」

▼…中国当局がシンガポール産などのメチオニンについて、アンチダンピング(不当廉売)調査の期間を10月上旬まで延長しました。

 「結果は見通せないが、当社は調査に完全に協力する。中国は米国と並ぶメチオニン最大市場の一つ。当社がシンガポールでの増産投資を判断(19年に第2系列を稼働)した際、中国市場の存在は言うまでもなく大きかった。しかしインドや東南アジアも成長が期待できる魅力的な市場だ。シンガポールの工場は、アジア市場全体をカバーする役割も担う」

 「メチオニンを含む飼料添加物用アミノ酸の市場は基本的に堅調だ。競争は激しく供給量も増えているが、当社は生産能力を戦略的に高めて供給の柔軟性を確保し、他社との差別化も実現できた。信頼できる供給者であるとの評価を得ており、業績への貢献も大きくなっている。シンガポールにある生産設備は2系列ともフル稼働を維持している。中期的にメチオニンの世界市場は年間5~6%の成長が続く。これまでの決断には満足している」

▼…景気低迷でM&A(合併・買収)や市場シェア変化が生じやすくなっています。

 「傾向的に、近年当社はアジア太平洋地域で有機的成長よりもM&Aによって事業を拡大してきた。有機的成長ももちろん可能で、サプライチェーンのボトルネック解消や生産能力の増強、安全投資も継続するが、現在の状況下ではM&A重視の傾向はさらに強まるだろう。その機会を注視している」(聞き手=中村幸岳)

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