東京大学医科学研究所(東大医科研)の河岡義裕特任教授の研究グループは、新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」に対して、既存のメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの効果が限定的なことを明らかにした。ハムスターでの検証結果で、誘導される免疫がオミクロンには不十分なことが感染拡大や接種者が感染する「ブレークスルー感染」の一因になったことを示した。

 モデルナ製のワクチンを1回または2回接種したハムスターに、7カ月後、従来株もしくはオミクロン株を感染させ、肺と鼻のウイルス量を測定した。その結果、従来株に対しては1回接種では100分の1に、2回接種では10万分の1に肺と鼻のウイルス量を減らすことができた。一方で、オミクロンの場合、1回接種では顕著な効果がみられず、2回接種でようやく30~50分の1にウイルス量を抑え込むにとどまった。

 併せて、従来株に感染後、回復したハムスターにオミクロン株を再感染させる実験も行った。感染後7~22カ月を過ぎたハムスターを対象に実施したところ、全個体から一定量のウイルスを検出した。従来株に再感染させた個体では肺、鼻ともにウイルスは確認できなかった。オミクロンに再感染させたハムスターではウイルスが肺から検出されない半面、鼻からはある程度のウイルスがみつかった。そのため、オミクロンでの感染拡大の背景には、鼻で増殖したウイルスが飛沫伝播した可能性があるとした。

 一連の成果を踏まえ、河岡特任教授らは、既存mRNAワクチンの接種や従来株の感染で得た免疫は、オミクロンの下気道での増殖をある程度、抑えるものの、上気道での効果は限定的だと結論付けた。オミクロン表面にあるスパイクたんぱく質上に生じたアミノ酸変異に起因するためだとしており、今後、変異ウイルスに対して幅広く対応できる免疫を長期間、誘導できるワクチンの開発が必要だとした。

 東大、米ウィスコンシン大学、国立国際医療研究センター(NCGM)、米ウィスコンシン州立衛生研究所との研究成果。詳細は米科学誌「セル・リポーツ」に掲載された。

新聞 PDF版 Japan Chemical Daily(JCD)

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