新型コロナウイルスの影響が広がるなか、化学企業は不測の事態への備えを厚くしている。コロナ以前から世界的に景気後退の局面にあったが、コロナによって大恐慌以来の不況が現実味を増しており、最悪のシナリオを想定する企業もある。化学大手のなかには長期借り入れを増やしたり、新たにコミットメントラインを設定したり、コマーシャルペーパー(CP)を発行するなど取り組みを強化中。多くの企業が下期(10~3月)以降の正常回復を想定するが、少なくとも上期(4~9月)は影響が残るとして財務基盤を強固にする構えだ。

 この20年間ほどで赤字から抜け出し、実質無借金まで復活を遂げた積水化学工業。ただ2019年度はコロナの影響として92億円減益(営業利益)を余儀なくされた。とくに主力ユーザーである自動車産業の低迷を受けた高機能プラスチックス事業が伸び悩んだ影響が大きかった。20年度もコロナの影響として全社で280億円減益(同)を織り込むが、前提条件の一つとして上脇太専務執行役員は「自動車の世界生産が前年度比2割減る。とくに上期(4~9月)の生産台数は半分程度とみている」と説明する。

 積水化学はあくまで備えとして、4月に長期借り入れとして500億円を調達したほか、第1四半期(4~6月)中にコミットメントライン1000億円を設定する計画。コミットメントラインは金融機関とあらかじめ取り決めた期間・融資枠の範囲内で、請求に応じ金融機関が融資を実行することが約束される。安定的な運転資金枠の確保や不測の事態への備えに利用されるケースが多い。

 1800億円のコミットメントライン設定と200億円の借り入れを発表した塗料大手の日本ペイントホールディングス。現時点で1000億円以上の手元資金があり、売上高の約8割を占める日本、アジアの事業は対前年で影響が出るものの黒字運営できているという。同社は1月末に対策本部を立ち上げ、田中正明社長ら経営陣が①社員の安全・健康確保②資金繰りの確保③BCP(事業継続計画)の遂行、をコロナ対策の基本方針として策定。今回のコミットメントライン契約は「この基本方針に基づき不測の事態にも対応できるよう、あくまで保険」との位置づけだ。

 十数年前からコミットメントラインを設定ずみの三井化学。既存のコミットメントラインの設定額は400億円だが、「今後の外部環境が不透明のため手元資金を平常時よりも厚くする方針から増額を検討中」だ。足元の資金繰りは問題ないとしているが、コロナの影響は上期(4~9月)まで残ると想定。減収のワーストシナリオへの対応も想定し、コミットメントラインを再設定する方向だ。

 CP発行を選択肢とする化学企業もある。CPは、企業が事業に必要な資金を調達するために発行する短期の無担保約束手形。三菱ケミカルホールディングスは既存の借り入れに加え、430億円のCPを発行した。償還期間は3カ月。日本ゼオンは、コミットメントラインとして500億円を設定する計画に加え、流動性リスク顕在化の可能性への対応として既存のCP発行枠500億円(現在発行残高はゼロ)を保持している。東海カーボンは、メガバンク2社とそれぞれ100億円ずつ、および地銀1社と20億円のコミットメントラインを設定したほか、CPの発行上限を300億円から400億円に増やした。

 住友化学は事業買収資金、社債償還資金などの資金使途のため、昨年12月にハイブリッド社債により2500億円を調達しており、「非常にいい時期に調達できた」としている。4月に久しぶりにCPを発行したが、それまでゼロ近辺での発行コストが0・3%台と上昇しており、「100億円超を一度に集めるようなことが難しい状況。以前の金融危機の経験と同様、当面はCPなどの市場調達に頼りすぎない資金繰りが必要と再認識している」という。ただ、「現時点でCP残高はまだ低く、銀行借り入れなど間接金融対比で劣後しない程度であれば、CPも少しずつ取るかたちで手元流動性を高める」方針。なおコミットメントラインは邦銀勢、外銀勢の枠を以前から相当額設定ずみとしており、「必要に応じ増枠できるよう相談を続けている」。

 また、東ソーはもともと手元資金を数百億円用意していたが、緊急事態に備え積み増した。銀行との間ですでに契約していた借入枠の未実行分を使うことで、手元資金を約1000億円とした。ラサ工業は「月商2カ月超の手持ち資金があり問題ない」としており、コミットメントラインも以前から設定ずみ。もともと手元資金に余裕を持つ企業もある。信越化学工業は20年3月期決算時点で、現預金や有価証券を合わせ1兆878億円を保有。流動性を十分に確保している状況だ。

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