米ファイザーと独ビオンテックが開発した新型コロナウイルスワクチンが、英国で緊急承認された。ウイルスの遺伝子情報を体内に送るメッセンジャーRNA(mRNA)技術を応用した世界初のワクチンだ。大規模な臨床試験で有効率95%という高い予防効果を確認しているが、保存管理が難しい特徴もある。早ければ来週末に米国、月末には英国以外の欧州でも接種が始まる見通し。申請準備を始めた日本にとって、欧米での先行導入が今後の「試金石」となりそうだ。

 1月下旬に新型コロナウイルスのゲノム配列が解読されてから、わずか11カ月あまりで緊急承認にこぎ着けた。中国とロシアでは暫定的に使われている現地のコロナワクチンがあるが、先進国では初めて薬事的な使用許可を獲得したワクチンになる。ワクチンを創製したビオンテックのウグル・サヒン最高経営責任者(CEO)は2日の記者会見で、「mRNAワクチンという新しい技術、社員たちの経験や高い能力、そしてファイザーのようなグローバル企業との提携があったことが早期開発を可能にした」と語った。

 英国では国民医療制度(NHS)を通じて接種体制を準備し、週明けにも各地で接種が始まる見通し。欧州の主要国では欧州医薬品審査庁(EMA)による承認審査を待っているところだが、年明けにEU(欧州連合)から完全離脱する英国は、単独での薬事手続きが特例的に認められていた。

 両社のコロナワクチンを流通する上で超低温管理が課題とされるが、専用に開発した保冷ボックスを活用して円滑な流通を図る。保冷ボックスは1000~5000回分のワクチンを保存できるサイズで、ドライアイスを補充すれば最大15日保存が可能。通常の冷蔵庫(セ氏2~8度)では5日間有効なことから、超低温対応の特殊な冷蔵庫がなくても最大20日間保存できる。数カ月単位で保存する場合はマイナス70度前後の保存環境が必要だが、到着してすぐ接種されるような現状であれば保冷ボックスで対応できると見ている。マイナス20度での長期保存も検討しており、数週間内に安定性試験の結果が判明するという。

 米国などで4万3000例以上を登録した最終治験では、新型コロナ感染症の発症予防効果を示す有効率が95%を記録した。この効果がいつまで持続するのか、感染を予防することも可能なのかは、治験の続きを観察しながら確認する。サヒンCEOによると、感染予防の検証には3~6カ月程度かかる見通し。小児適応の治験実施も検討している。生活習慣病などの既往歴がある集団の治験データも数日内に公表する。

 英国以外でも承認審査は始まっている。米国では10日に緊急使用許可(EUA)が審議される。承認されたら翌11日にも接種を開始できるよう急ピッチで準備が進められている。EUでは、最短で29日に欧州医薬品審査庁(EMA)の欧州医薬品委員会(CHMP)が開催され、審査結果が出る予定。

 日本では10月から国内P1/2を実施中で、申請に向けて当局への資料提出を行っている。国内治験の結果を確認した上で、海外P3結果とともに承認申請する予定。治験薬の配送体制は明らかにしていない。 

試読・購読は下記をクリック

新聞 PDF版 Japan Chemical Daily(JCD)

新型コロナウイルス関連記事一覧へ

HP独自・先行の最新記事もっと見る