新型コロナウイルス感染症予防、拡大防止のためテレワークが奨励されるなど、思いもよらない要因により各社は働き方改革を迫られている。新型コロナの世界的大流行は予期せぬ出来事で、すぐさまテレワークなどを実行する体制が十分に整っておらず苦心する企業がある一方、以前から働き方改革を推進し、関連する制度の利用を促進している企業も存在する。三洋化成は後者の1社。コロナ下における働き方を追った。

 「案外、寮でも仕事はできるな」と実感したのは東京支社(東京都中央区)勤務で、洗剤などに用いられる界面活性剤の営業を担う中堅社員の尾片智之主任。所属する生活産業部東京生活産業課では緊急事態措置が実施されている間、FAXなどの確認のため、1人が1週間に1、2回事務所を訪れていたが、その他の社員は原則、出社禁止。テレワーク中は午前に30分間、ウェブ会議システム「Teams(チームズ)」を使って会議を行い、情報共有や新たなニーズの探索などについて、ざっくばらんに意見を交わしていた。また、ソーシャル・ネットワーキング・サービス「LINE」でグループを作成するなど、デジタルツールを駆使し、課内で緊密にコミュニケーションを取っていた。

 同社は2019年4月に在宅勤務制度を導入。尾片主任は職業柄、東京支社で提案資料を作り、商談後は帰社し、成果をまとめるなどしていた。社外秘の情報もあり、事務所で仕事をするほうが効率がよく、新型コロナが蔓延する前までは在宅勤務を行っていなかった。ただ今年4月7日に東京都などを対象に緊急事態宣言が発令されて以降、上長から出社しないよう命じられ、住まいの川崎寮(神奈川県川崎市)で業務に励むことになった。顧客側もウェブ会議システムを使用できる環境にあったこともあり思いのほか、在宅勤務は捗った。ウェブ会議システムはユーザーが利用しているものを使ってよいと認められていたが、「ひと昔前の当社だとユーザーに合わせて柔軟にシステムを使い分けるということは難しかったかもしれない」(尾片主任)と語る。

 約10年前までは「夏でも長袖白シャツにネクタイといった堅い会社」(同)だった同社は近年、働き方改革、女性活躍推進、LGBTに関する取り組みについて矢継ぎ早に施策を講じているが、尾片主任が会社が本気で変わろうとしていると感じた出来事が18年8月に始まった服装の自由化。安藤孝夫社長ら役員が実践しているのをみて、「働き方改革の本気度を痛感した」(同)という。

 実際に在宅勤務してみて課題も見つかった。実務面では社外秘情報に接するのが困難で、事務所にいるほかの社員に電話などで依頼し、確認してもらわなければならないことに不便さを感じている。

 人と会って話をすることの大切さがあらためて身にしみた。「社内で同僚らとの何気ない会話からインスピレーションが得られ、街を歩けばヒントがころがっている。部屋から出られない生活をして、多くの人と会い、いたるところにアイデアにつながるネタがある」(同)ことを再認識した。

 緊急事態宣言解除後は出社する人数、頻度が増え、ユーザーと対面できる機会も増しつつある。今後は有用な制度であると判明したテレワークも活用しながら、最適な働き方を探索していく。

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