昨年、小欄で紹介した「世界報道写真展」が東京・恵比寿の東京都写真美術館で開催されている(8月9日まで)。今回は130の国・地域から4315人が参加、7万を超える応募があった。コンテスト上位作品のいくつかはやはり新型コロナウイルスがテーマとなった▼大賞はデンマークのマッズ・ニッセン氏の「初めての抱擁」。ブラジルの介護施設で感染防止対策として用意されたプラスチック製のハグカーテン越しに看護師が入居者の老人を抱きしめている写真だ▼2020年は人と人との接触が禁じられるなど、当たり前だったことが当たり前でなくなった。カーテン越しではあるが抱擁ができるようになった二人の姿は、たとえ大きな困難があっても希望が訪れることを示している。写真展のサブタイトル「私たちは生きる」を象徴する一枚だろう▼国境が閉鎖されたスイスとドイツの間に設置された柵を挟んで会話する男女、特別に改造されたフランスの高速鉄道TGVで移送される患者たち、海中を漂う使い捨てマスクに近寄るカリフォルニアアシカ-さまざまな視点でコロナの時代を切り取っている▼コンテストにはスポーツの部が設けられている。コロナ禍の東京五輪・パラリンピックは報道写真というフィルターを通して、どのように写し出されるのだろうか。(21・7・30)

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