武田薬品工業、米CSLベーリングなど血漿分画製剤事業を手がける企業10社超が集結し、新型コロナウイルス感染症に対する高度免疫グロブリン製剤(H-Ig)を共同開発するアライアンス(CoVIg-19プラズマ・アライアンス)が今春立ち上がった。回復患者から血漿を集めて中和抗体のみを抽出した治療薬だ。当初は年内にも米国で実用化できると見込んでいたが、治験開始が約3カ月遅れたため来年春頃にずれ込みそうだ。アライアンスの旗振り役で、武田薬品の血漿分画製剤事業トップであるジュリー・キム氏に、開発の進捗状況などを聞いた。

 - 臨床試験(ITAC試験)の症例登録はどの程度終わりましたか。

 「米国立衛生研究所(NIH)が主導で行っているので当社が直接状況を知る立場にはないが、直近のNIHからの報告によると、計画している症例数500例のうち約15%が登録されたようだ。すべて米国で登録された症例だ。日本でも治験実施施設は決まっているが、症例登録は始まっていない」

 <治験3カ月遅れ 年内申請難しく>

 - 当初は7月に治験を始める予定でしたが、約3カ月遅れました。

 「治験開始に必要な治験薬は7月時点ですべて準備が完了していた。だがNIHのほうで開始前の調整が必要だったようで時間がかかり、試験開始が10月になった。われわれは待つしかなかった」

 - 年内に治験の結果が出て、緊急使用許可(EUA)を申請できる可能性も示していました。

 「症例登録の進捗が15%程度である以上、月内にデータは出てこないだろう。ただ、500例すべての登録が完了さえすれば、あとは比較的早く進むと期待している。有効性の主要評価項目は投与7日後の症状改善度。副次的な評価項目も28日後の評価になっている」

 - 来年3月頃までには速報結果が出て、EUA申請できそうですか。

 「そうなることを願っている。だが当社が主体で行っている治験ではないので、スケジュールを見通すのは難しい」

 - 米国では他社の抗体療法がコロナ治療薬としてEUAが出ました。H-Igと競合する位置づけになりますか。

 「米国で許可されている抗体療法は軽症~中等症の入院していない患者層に対する治療法。H-Igは重症化した入院患者を対象に開発しているので、完全に競合するわけではないとみている。非入院患者を対象にした治験は現時点で考えていない」

 <費用は自社持ち 政府助成受けず>

 - 治療薬は無償で提供すると聞きましたが、開発費用などはすべて自社負担ですか。

 「アライアンスの加盟企業で費用や利益、契約を共有するような仕組みはない。費用は自社で捻出し、薬剤は無償で提供することが参加の条件。アライアンスの終了後に企業が独自にビジネスとして継続することは可能だ」

 「タケダは特定の政府から助成金などをもらってやるつもりはない。グローバル企業としてグローバルに供給することをめざす以上、特定政府に資金援助を求めるつもりはない」

 <製品開発効率化 モデルケースに>

 - 今回のアライアンスを機に、「コロナ後」も血漿分画製剤業界で新たなパートナーシップなどが進むと思いますか。

 「次のパンデミックに備えて今回の経験を生かせる。再び感染症が世界規模で流行したとき、アライアンスとして早く動ける。だが通常のビジネス上の提携も増えていくとはあまり思っていない」

 「製品開発を効率化する機会にもなるかもしれない。ITAC試験は、タケダとCSLが製造する2製剤と、米政府が支援する2製剤を同時に評価する試験デザインになっている。製造場所が異なっても各製剤の抗体濃度が同一であれば、薬効としても同一であるという考え方から、4製品を同時に評価する試験が認められた。承認審査側としても、一つの臨床試験から4製品の審査を行える利点がある。これがうまくいけばコロナ以外の開発でも活用できるかもしれない」(聞き手:赤羽環希)

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