新型コロナウイルス感染症患者の重症化予測に役立ちそうな成果が相次いでいる。国立国際医療研究センター(NCGM)、東京医科大学のチームは、血液分析によって予測因子をそれぞれ同定。熊本大学では重症者のT細胞に特徴的な異常を突き止めた。重症化が予見できれば備えることができ、死亡率低下や現場の負担軽減にもなる。バイオマーカーとして実用化を目指す動きも始まった。

 8割の患者が無症状・軽症ですむものの、残り2割の患者は重症化するというのが新型コロナウイルス感染症の特徴。発症後、しばらくしてから一気に悪化するというたちの悪さを持ち、現状、すべての患者に対して手厚いフォローが必要だ。

 高齢、肥満、高血圧といったリスク要因は分かってきたが、患者によっては必ずしも当てはまる訳ではない。このため、より精度良く見極めるマーカー(指標)に対するニーズは強い。

 NCGMのチームが指標に使えるとして同定したのは、分泌たんぱく質ケモカインの一種「CCL17」。その血中濃度が一定値を下回ると、重症・重篤化することを明らかにした。軽症者、重症者それぞれから採取した血液を網羅的に解析し、初期段階から血中濃度に差があることを見いだした。

 CCL17のほか、細胞が産生する分子であるインターフェロンラムダ3など4因子も指標となり得る可能性を提示した。ともに重症化する数日前から血中での値が急上昇するためだ。CCL17と組み合わせることで、重症化のタイミングも予測できるようになる。

 東京医科大学の落谷孝広教授、東京慈恵会医科大学の藤田雄講師らは、同感染症患者31人から採取した血中のエクソソーム(小胞)、核酸を分析することで重症度の早期予測マーカーとして利用可能な因子「COPB2」を割り出した。COPB2はたんぱく質の一つで、血液中の濃度が高ければ重症化しないという相関関係がある。両大学と米カリフォルニア大学、国際スペースメディカル(東京都千代田区)との共同研究成果だ。

 細菌やウイルスに感染した細胞は、エクソソームを介して周辺細胞にも影響を与えることが知られている。そこで重症化要因の可能性があるとにらんで、網羅的解析を実施した。さらに、凝固関連エクソソームたんぱく質やRNA、肝障害関連RNAが高いと重症化傾向にあることも分かった。

 熊本大学の佐藤賢文教授、英インペリアル・カレッジ・ロンドンの小野昌弘准教授らは、重症者の肺組織から採取したT細胞に対する遺伝子解析の結果、同細胞内にある反応ブレーキ役を担う分子が機能しなくなっていることを発見した。ブレーキがきかなくなっているため、多数のT細胞が過剰に反応。肺炎が進行し、重症化へと陥る可能性を示した。

 これまでもT細胞の異常は示唆されてきたが、詳細が判明したのは今回が初めて。ブレーキ役の分子が働かなくなった理由が未解明という課題は残るが、メカニズムの一端が分かったことで重症化を抑制する薬剤やリスクを判断する診断薬の開発に貢献することができるとしている。

 こうした成果に基づき、各チームは実用化に動き出している。NCGMの場合、企業と組み、バイオマーカーとして製品化する方針。医薬品医療機器総合機構(PMDA)とも協議中で、「数カ月以内にできれば」(NCGM)と期待する。自動装置で検査できる仕組みで検討しており、「外来で来たタイミングで診断できるようにしたい」(同)考えだ。

 COPB2を利用した診断キットとともに、東京医科大のグループは、同定したエクソソームやRNAによる新規療法の開発も狙う。特定したエクソソームなどを補充・除去することによる治療法の可能性を探る。現在、研究時とは違う患者集団でも解析に取りかかっており、まず成果が正しいかの検証を進めていく。

試読・購読は下記をクリック

新聞 PDF版 Japan Chemical Daily(JCD)

新型コロナウイルス関連記事一覧へ

ライフイノベーションの最新記事もっと見る