スイスのリビンガードの開発したアンチウイルス技術が世界から注目を集めている。繊維などの表面を正に帯電したポリカチオンで加工することで、細菌やウイルスを不活性化する。洗っても効果は落ちない。先月、ベルリン自由大学などが、新型コロナウイルスを恒久的に破壊できると発表したことで関心が一気に高まった。日本でも同社の技術を応用したマスクが発売されるが、応用の幅はこれにとどまらない。サンジフ・スワミーCEOに、今後の事業展開などを聞いた。

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 - 技術について教えてください。

 「ポリカチオンで細菌やウイルスを不活性化できることは知られていたが応用は進んでいなかった。我々はまず、多様な細菌やウイルスに作用するには、電荷や長さが違うさまざまなポリカチオンが必要であることを見いだした。次いで繊維などに処理する過程で、同じポリカチオンの形や電荷をさまざまに変える手法を確立し、実用化に成功した。繊維1平方センチメートルのなかに40億個のポリカチオンがある。新型コロナウイルスの場合、通常は突起が邪魔になってポリカチオンが表面の皮膜に触れられないが、長く作り変えることで突起を越えて作用できるようになる」

 「開発したのは2013年。コロナウイルスばかりでなく、豚インフルエンザや黄熱、ポリオなどさまざまな病原体で試験を行った。6万~7万回もの試験や実験によって、何がうまくいって、何がうまくいかないかについての膨大なデータがある」

 - 新型コロナウイルスへの有効性が確認されました。反響は。

 「ベルリン自由大学などによる評価は、欧州連合が、不足する医療用マスクに代わる新たな素材を探索するプロジェクトの一環として行われた。当社が資金を提供したものではない。病院や駅で働く人々や自動車のドライバーなどを、感染のリスクから守ることができるとあって反響は大きく、カーシートやシートベルト、紙、塗料、衣類などを手がけるたくさんの企業から技術論文がほしいと連絡がきている。もちろん病院からの関心も高く、薬が効かない細菌から医師や看護師を守る手段として注目されている」

 - どのような素材に適用できますか。

 「繊維ではポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、シルク、ウール、綿、混紡などに適用できることを確認している。特別な装置は必要ないので、一般的な繊維工場ならどこでも当社の技術を適用できる。繊維以外では紙、不織布、塗料、インクなどをテストした。ポリエチレンやポリプロピレンなどさまざまなプラスチックに混ぜて押出成形した場合でも良好な結果を得ている」

 - この技術を適用したマスクが日本でも発売されます。今後の技術開発の方向は。

 「綿製の手袋の開発を進めている。これでドアのノブや電話を触れば、外す必要はない。洗って繰り返し使用できる。拭き取り用具にも取り組んでいる。エアコンのフィルターや、病院やレストランのユニホームにも注目している」

 「新たに、クエン酸を修飾したものを加えようとしている。クエン酸もポリカチオンだ。年内に投入したい。また22年までに品揃えをすべてオーガニックにする」

 - 日本市場に注目しています。

 「社内に日本向けのチームを設置したいと考えている。日本人はとても衛生意識が高いので、すぐ大きな市場になる。当社の技術によって、日本の製品を環境に負荷をかけずに安全にできる。すでに寝具メーカーのほか数社と協業を始めている。エアコンメーカーやアパレル企業も関心を持っている。インドと米国に次ぐ開発拠点を早期に設置したい。当社から供給する化合物を製造するパートナーもほしい」(聞き手=豊田悦史)

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