小説や映画、アニメなどの主人公はヒーローあるいはヒロインと呼ばれる。人並み外れた武勇、知性、あるいは特殊能力などにより、不可能と思えるようなことをやってのける。そうした主人公に人々は心を奪われる。そしてヒーローには大抵、弱点が設定されている▼例えば柴田錬三郎が生んだ眠狂四郎。妖しい円月殺法は無敵にみえたが、盲目の剣士には通用しなかった。ルパン三世は、カワイコちゃんにはめっぽう弱いと自ら告白している。全てを完璧にこなす主人公がいて、どんな強大な敵が襲ってきても秒殺する。そんなヒーローが活躍しても物語は面白くない。危機一髪で難関を乗り越え、最後に目的を達成するから感情を揺さぶられる▼現実社会にもヒーローはたくさんいた。古くは神話の世界から、武将、政治家、実業家、スポーツ選手に格闘家。ところが最近は、そうしたヒーローがなかなか生まれにくいのだという。超が付く情報社会となり、弱点が簡単に晒されることも一因のようだ。フィクションの世界では愛される弱点も、現実の世界では許されない。実存した過去のヒーローも、今なら多くが謹慎処分の経験者だろうか▼英雄の弱点を突き、それを煽って拡散させるのが現代のヒーローだとすれば、感情移入は難しい。情報を扱う者ゆえ自戒の意味も込めて。(21・6・1)

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