住宅の壁から垂直方向に伸びた物干しざお。シンガポールのHDB(公共住宅)でも、それをみることができる。一体、どのようにして先端まで洗濯物を持っていくのか。長年の疑問をぶつけたところ、特別な工夫はなかった。室内で洗濯物をかけて、それを外に出すだけらしい。シンガポールは狭いから、日本で物干しに利用されているベランダのような空間は用意できないという▼それでもHDBの各区画には日本の住宅ではおよそ考えられない部屋が設置されている。ボンブシェルター(防空壕)だ。地震のないシンガポールの建物は日本人の目からみるとどれも華奢で、建物自体はとても爆撃に耐えられそうにない。ただ、直撃よりも、爆風とともに飛んでくるガラスの破片などで命を落とすケースがはるかに多いという実態から、1997年に義務化された▼四半世紀が過ぎたが、この間にシンガポールが爆撃を受けたことはない。大半は物置となっているようだ。住人の一人に聞くと、自然災害を含め、いざというときの備えとして無駄とは思っていなかった▼東京都は先週、北朝鮮のミサイル攻撃があった場合を念頭に、都内の地下鉄の駅や地下道、合わせて109カ所を緊急一時避難施設に指定した。「大げさだ」といったら、「平和ぼけ」といわれるだろうか。(22・6・2)

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