社長アンケートで、コロナ・ショックで生じた経営上の課題(複数回答可)を聞いたところ、「生産体制」が29人で最も多く、「サプライチェーン」(28人)、「デジタル投資」(24人)、「成長戦略」(22人)と続いた。生産体制では、顧客への供給責任や収益確保に向けた安定生産継続、そのための従業員の健康・安全確保の重要性が強調された。

 サプライチェーンについては、海外からの原材料調達で障害が生じたほか、ロックダウンにより製品輸出に影響があったなどの事例が示された。自社工場を含めたBCP(事業継続計画)強化の必要性も指摘された。

 デジタル投資ではソーシャルディスタンスの概念が生産性を大きく下げる要因となったり、ニューノーマルで変化する社会要請や消費者ニーズに迅速対応するために欠かせないなどの意見があった。働き方改革のための環境構築の一環ともなる。

 そのほか、テレワーク活用など新しい生活様式に対応した働き方、全世界で働く社員の安全確保と事業の継続なども課題として挙げられた。

 コロナで得られた教訓(複数回答可)の問いには、「テレワークをはじめ効率的な勤務体系が構築できた」が42人で最多。次いで「デジタル関連投資を積極化するきっかけになった」(27人)、「新たな事業ポートフォリオを考えるきっかけになった」(15人)と続いた。

 その他の意見として、生産体制の在り方や危機管理の取り組みの重要性を確認、働き方や経営上の優先順位を見直すきっかけになった、ESG経営の本格化を速やかに実践していく必要性を感じた、との意見もあった。また、医薬品など人の命にかかわる製品については、国内で最低限の数量を確保できるサプライチェーン・体制を構築する必要性も指摘された。

 コロナ騒動では物流寸断によりサプライチェーンが大きな課題となった。「全面的に見直す」は2割に当たる10人。「見直す必要性は感じるが、具体的には考えていない」も11人おり、今回浮き彫りになった課題の改善を図っていく方針。見直す目的としては「特定の国への依存度を下げる」「危機発生時を考慮し柔軟に調達先を変更できるようにする」といった回答が多かった。「見直す必要はない」は全体の14%に当たる7人のみだった。

 その他の回答として、サプライチェーンの見直しを検討中だったり、これまでも継続課題として取り組んでいる、見直し自体の要否の検討が必要といった回答が目立った。サプライチェーンを従来よりも「見える化」「単純化」してコントロールしやすくし、分断された際もいち早く立ち直れるようにする必要があるといった意見もあった。

 コロナ禍における経営トップとしての所感を改めて聞いた。このなかで、「日常生活において不可欠な製品を提供している当社にとって、製品を供給し続ける重要性と責任を改めて感じた」(荒川化学工業・宇根高司社長)、「さまざまな産業で利用されている製品ガスの供給責任を再認識するとともに、従業員の健康管理ならびに日常環境が変化したなかでも従業員のモチベーションを維持していくことの重要性を再確認した」(大陽日酸・市原裕史郎社長)など自社の製品の重要性を再確認するとともに、根幹となる社員の大切さを強調する意見が多かった。

 さらに「今回の危機で変化が促され、見えなかった課題が表面化した」(積水化学工業・加藤敬太社長)などと指摘。「これまで進めてきたグローバルでの複数購買化をさらに推し進める必要性を感じた」(保土谷化学工業・松本祐人社長)や「改めて、サプライチェーンのグローバル化が以前とは比較にならないほど進んでいることを実感した」(大阪ソーダ・寺田健志社長)など、サプライチェーンに関する見解も多かった。「新しい長期ビジョン、中期戦略で重視しているスピードと柔軟性のある経営の重要性を再確認できた」(ダイセル・小河義美社長)と自社の経営計画と照らし合わせるケースも多かった。

 コロナをきっかけに、「製造業としての対応、雇用のあり方、価値観の変化、人財育成などについて徹底的に考える機会を与えてくれている」(三菱ガス化学・藤井政志社長)、「通常時には取り組みにくい構造改革を後押しするメリットもある」(日本曹達・石井彰社長)と捉えられている。

 コロナ禍にあっても「どれだけ次に向けての手を打ち、成長のため歩みを進められるかが経営者に突き付けられている課題」(宇部興産・泉原雅人社長)、「終息後の状況が確実になってから動くのでは遅いのであって、どのような世界になるか『変化の本質』を捉えて準備しておくことが重要」(東レ・日覺昭廣社長)と捉える。

 また、「当社グループのニューノーマルをどう構築していくかが、これからの成長を左右する」(日産化学・木下小次郎社長)、「外部環境を考慮しながら、事業活動の継続性を確保しつつ、価値観の変化を捉えることが求められている」(ADEKA・城詰秀尊社長)など、変化に対応した取り組みの重要性を強調した。

 さらに、「打撃を受けた社会や経済を回復させるには、企業が消費者にとって真に欲しいと思える製品・サービスを提供し、需要を創造する必要がある」(富士フイルムホールディングス・助野健児社長)、「自分たちが社会にどのような貢献ができ、製品がどれだけ必要とされているのかを冷静に再認識することが必要である」(AGC・島村琢哉社長)、「アフターコロナにおいても時代が必ず必要とする先端分野の製品群を育てることが、会社の発展のため、より一層大事である」(東亞合成・髙村美己志社長)と変化していく消費者ニーズへの対応力が問われる。

 それらをにらみ「変化に適応できる組織運営、人材育成を施策として強化していく必要がある」(日油・宮道建臣社長)、「世の中何があっても不思議ではないことを痛感した今、今後は柔軟な思考と機敏な行動がとれる会社を目指したい」(日本化薬・涌元厚宏社長)、「ウィズコロナを前提に新しいワークスタイルやサプライチェーンの再構築を検討し、逐次実行していく」(三井化学・橋本修社長)と体制面の変革を目指す意見が目立った。

 今後の展望として、「コロナ禍も世界の英知を結集し、きっと乗り越える。その時、人類はこれまでと違ったより豊かな生活様式を手に入れると信じている」(石原産業・田中健一社長)との期待感の一方で、「一部の国は自国第一主義に傾きグローバリズムに少なからぬ影響を与えるだろう。サプライチェーンの分断などで国際分業が困難になれば、これまでと同じトレンドの経済成長は望み難いと思われる」(日鉄ケミカル&マテリアル・榮敏治社長)、「人々の価値観や各国の政治、イデオロギー、国際通商、産業構造、社会活動などまで幅広い範囲で大きな変革が生じる」(旭化成・小堀秀毅社長)と厳しい見方も示された。

〔社長アンケート 回答者一覧〕(社名で五十音順、敬称略)
 ◇
小堀秀毅(旭化成)/城詰秀尊(ADEKA)/宇根高司(荒川化学工業)/田中健一(石原産業)/泉原雅人(宇部興産)/白井清司(エア・ウォーター)/島村琢哉(AGC)/寺田健志(大阪ソーダ)/伊藤正明(クラレ)/小林豊(クレハ)/安藤孝夫(三洋化成)/川橋信夫(JSR)/山田敬三(JNC)/森川宏平(昭和電工)/斉藤恭彦(信越化学工業)/岩田圭一(住友化学)/小川育三(住友精化)/加藤敬太(積水化学工業)/坂本隆司(第一工業製薬)/十河政則(ダイキン工業)/小河義美(ダイセル)/高橋弘二(大日精化工業)/市原裕史郎(大陽日酸)/猪野薫(DIC)/鈴木純(帝人)/山本学(デンカ)/髙村美己志(東亞合成)/長坂一(東海カーボン)/山本寿宣(東ソー)/髙島悟(東洋インキSCホールディングス)/楢原誠慈(東洋紡)/日覺昭廣(東レ)/横田浩(トクヤマ)/宮道建臣(日油)/木下小次郎(日産化学)/榮敏治(日鉄ケミカル&マテリアル)/髙﨑秀雄(日東電工)/棚橋洋太(日本化学工業)/涌元厚宏(日本化薬)/五嶋祐治朗(日本触媒)/田中公章(日本ゼオン)/石井彰(日本曹達)/田中正明(日本ペイントホールディングス)/助野健児(富士フイルムホールディングス)/松本祐人(保土谷化学工業)/鍋島勝(丸善石油化学)/橋本修(三井化学)/藤井政志(三菱ガス化学)/越智仁(三菱ケミカルホールディングス)/上埜修司(ユニチカ)

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