化学産業の近未来の見通しが、新型コロナウイルスの世界的な蔓延と油価急落の2つの動きによって修正される可能性が出てきた。コロナ以前に主流だった世界のトレンドが、コロナ以後の世界で一定の期間、変容するとみられるためだ。とくに、気候変動の抑制、循環型社会の構築といった最も強調されてきたトレンドに影響を与えるとみられており、化学各社の成長戦略に影響を与えることも予想される。
 新型コロナウイルスの蔓延は、世界が直面する最も差し迫った問題をこれまでの気候変動から、感染症などの疾病の蔓延防止へと書き換える可能性がある。この場合、コロナ以前の世界で投じられるはずだったエネルギー転換、リサイクル促進といった分野への資金がウイルス診断技術の革新、抗ウイルス薬の開発などへと流れを変えることも予想される。
 とくに欧州連合(EU)において大きな変化が起こる可能性がある。気候変動、循環型社会といったトレンドを牽引してきたEUの加盟国において、医療体制の脆弱さによる感染症の蔓延が指摘され、国民の怒りを買うなどの状況が起きている。EUの結束が乱れれば、これまでのトレンドに大きな影響を与えそうだ。
 原油下落がこうした動きを助長する。原油価格は足元、ニューヨーク先物で1バーレル当り20ドル程度と20年前の水準にまで下落しており、当面、大幅な上昇が見込めない状況にある。化石燃料の価格低下が長引けば、コスト高となる再生可能エネルギーの開発に影響を与えかねない。同様に、化石資源を原料に生産するプラスチックについても、大幅なコストアップとなるリサイクルシステムへの開発投資を冷え込ませるとみられている。
 原油価格の低迷は、日本の石油化学産業の近未来にも影響を与えそうだ。石化産業は、米シェールガス由来製品のアジアへの流入と、産油国・新興国を中心とするケミカルリファイナリー化(燃料油の化学品転換)の大波を受け、「2020年以降は長期にわたって低迷が続くと予想されていた」(総合商社)。しかし、原油価格で1バーレル当り40ドル以下の低価格状態が続けば、米国のシェールガス・オイルの開発に急ブレーキがかかるほか、ケミカルリファイナリーへの投資も冷え込むとみられている。「新規投資が抑制されれば、需要成長により再び石化産業の好況期が訪れる」(同)と予想される。
 化学企業はこれまで、コロナ以前の世界の潮流をベースに成長事業を定め、近未来の戦略を構築してきた。コロナ以後の世界でそうした潮流がどの程度変容するのか、各社が注視することになりそうだ。(佐藤豊編集局長)

政府や東京都知事の要請などを受け、産業界も在宅勤務など新型コロナ感染対策を継続・強化して
いる(東京・大手町)

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