砂時計を初めて見たのはいつごろだったか。就学前には時間の意味もわからぬまま玩具として触っていたかもしれないが、まったく記憶にない。いつしかタイマーとして使うことを覚え、現在はその用途ではなく自宅の机の上にヒーリンググッズとして鎮座している。砂が落ちるのを正視していると、我を忘れて悩みも軽くなる▼世界最大の砂時計は「砂暦」という名前の1年計で、島根県大田市の「仁摩サンドミュージアム」にある。全長5・2メートル、直径1メートルのジャンボ容器を使い、1トンの砂が直径0・84ミリのノズルから刻々と落ちる。1秒間に0・032グラム、1時間に114グラム、1日で2740グラムの砂が時を”崩して”いる。なんという精密さだろう▼砂時計について知りたかったらこれ1冊あれば事足りそうな書物『砂時計の書』(エルンスト・ユンガー)によると砂時計は、日本には中国から1620年に渡来し、その中国へは14世紀にヨーロッパの宣教師がもたらしたという。砂時計の起源はさらに遡ることになるがこれは諸説あり、造形美術に砂時計が確実に出現するのは中世が最初のようだ▼過ぎた時間、残る時間。砂時計はそれを物量でまざまざと見せつける。一生計の砂時計がもしあったら、などと空想しかねないが、もしあっても、それを正視できる人はいるだろうか。(20・2・5) 

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