中国の主要省当局は昨年央から年末にかけ、中央政府の第14次5カ年計画(~2025年)に対応する化学産業発展計画を相次ぎ発表した。中央政府は30年までにCO2排出量をピークアウトさせ、60年までに実質ゼロにする「双碳」目標を掲げて、製油所や石炭化学、石油化学の各産業に対する省エネ・排出基準や総量規制を厳格適用する方針を打ち出した。だが化学産業に限らず、中国で一度拡大局面に入った投資に急ブレーキをかけるのは極めて難しい。

 七大石化基地を擁する遼寧省や福建省、山東省では化学企業の売上高や付加価値額が全体の2~3割を占め、経済の屋台骨を支える。これら省は25年にかけ石化投資が加速する感すらある。一方、生産能力を高めた基礎化学品と関連インフラをベースに、双碳目標達成に寄与し得るファインケミカルや、人々の健康維持向上に貢献する医薬中間体の生産拡大を打ち出すなど、持続可能性への意識が強まっているのもまた確かだ。

 ある日系企業によると習近平政権が掲げる「共同富裕」や学習塾規制、不動産投資抑制政策は、国連の持続可能開発目標(SDGs)に沿う意味もあると考えられる。中国の実情に合わせ169の詳細目標を優先付けし、達成を図るという。だとすると前出の政策も腑に落ちる部分がある。

 各省の化学産業育成計画において、さらに注目されるのが、いずれもスーパーエンプラ(SE)や高機能膜の事業化を目指すという点だ。汎用品のような技術導入は難しく自前のプロセス開発が求められるため、25年までの実現は困難と思われる。しかし、すでに5G機器用SEの生産を始めた中国企業があり、採用も始まった。中国は以前から高機能樹脂・合成ゴムの研究者を、日本を含む世界各国から招へいし研究人材の育成に力を入れてきた。想定を超える早さで、幅広いSEの量産が始まる可能性もある。

 省エネ・排出削減強化を含め、中国の経済構造は急速に変化し、それにともなって巨大なうねりが生じている。化学業界では生分解性樹脂の大増産がその一例で、樹脂によっては増産を見越して、すでに値崩れが生じている。別の日系企業の駐在員は「中国で5年後を見据えた長期事業目標を設定するのは難しい」とこぼす。経済計画がある一方で、昨年の電力供給制限など不測の事態が生じるケースがあり、化学品市況は大きく振れる。生分解性樹脂に生じたことは、SEやその他化学品にも起こり得る。企業もこうした変化に合わせて事業戦略や与信基準、リスク管理のあり方を再検討する必要がありそうだ。

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