新型コロナウイルスをいち早く抑え込んだとされる中国。経済活動も再開され、同国と貿易関係が深い東南アジア諸国は早期の景気回復が期待される。シンガポール国立大学(NUS)経済学部のアルバート・フー准教授に中国と東南アジア経済の現況、今後を聞いた。

◎…中国では製造業の操業率が高まっていますが、需要回復が追い付いていないようです。

 「需要回復のための景気刺激策には2つの手法があると考える。まずインフラ投資の拡大だが、高速道路や鉄道網、発電所の整備といった従来の範囲にとどまらず、ヘルスケアネットワークサービスの拡充など新たなかたちの投資が必要だ。中国は初期診療体制が整っておらず、今回のようにパンデミック(感染爆発)が起こると人々は大病院に殺到する。地域密着の外来診療所など医療サービスへのアクセス改善余地は大きい」。

 「2つ目は経済構造改革の加速だ。需要喚起のため、規制を緩和し市場原理がより強く働くような構造にすべきで、政策当局もその方向で検討を進めていると認識している。中国政府の正当性は、経済成長の実現や雇用創出によってこそ裏打ちされる。当然政策の最優先テーマもそこにあり、現実的なアプローチをするだろう。例えば中国では民間の不動産所有権が十分保護されていないが、こうした点が改善されれば、民間企業が進出できる分野がさらに広がるだろう」

◎…現指導部は国営セクターの保護が手厚い印象です。規制緩和は加速するでしょうか。

 「確かに現指導部の下で国家が担う役割が強化されつつあるが、従来のような高成長が難しくなった今、規制緩和は強力なエンジンになり得る。感染爆発による景気の大幅な後退でその必要性は増している。(生命保険や証券など)金融サービスの事業規制を緩和し、外資出資比率の上限を撤廃するのもその一例だ」

◎…中国への輸出依存が大きい東南アジア諸国の景気回復も期待されます。

 「他地域より早く回復する可能性はある。最終的に中国で消費・使用される製品の輸出量は比較的早く回復し、東南アジア諸国は一息つける。一方、中国が輸入後加工して欧米などに再輸出する中間品は需要落ち込みが続くだろう」

 「2003年に発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)の終息後、東南アジア経済は非常に力強く回復したが、今回は多くの科学者が感染を抑え込んだ後も、すぐに人々の生活が元通りになるとは考えていない。世界経済への影響も長引くと考えられる」

◎…新型コロナ以後、企業のサプライチェーンや中国の位置づけに変化は生じるでしょうか。

 「今回の感染爆発は世界中の人々に、日常生活がグローバルバリューチェーンに依存しているということを強く認識させた。その一部が破断するとチェーン全体に影響がおよぶ。感染終息後、中国からの生産移転を検討する企業もあるだろう。その最大の恩恵を受けるのは間違いなく東南アジア諸国だ」

 「ただ、これまでも米中摩擦や賃金上昇などを受け、中国企業を含む多くの企業が東南アジアへの生産移転を進めてきた。大規模なサプライチェーンの見直しには莫大なコストがかかるため、そのような変化はヘルスケア関連製品など一部にとどまるだろう。中国の賃金コストは高いが、洗練された生産ネットワークという強みもある」

◎…産業界には今後どのような技術革新が求められるでしょう。

 「先行きは不透明だが、今回の感染爆発を百年に一度の極めてまれな出来事とみるか、来年にも再来する可能性があるとみるか。企業がどのように評価し、考えを共有するかによる」(聞き手=中村幸岳)

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