人事異動で席が変わることになったので引き出しを整理していると10年前の連載記事のスクラップが出てきた。タイトルは「震災とサプライチェーン 化学品需給を追う」。多くの工場が被災するなかサプライヤーや行政が安定供給を確保するため、どのような対応をしてきたのか、どのような課題に直面したのかを振り返っている▼人工透析の溶液にも使われる重炭酸ナトリウム(重曹)。人命に関わるだけに速やかな代替供給が求められたが、メーカーの顧客リスト開示は独占禁止法に抵触する。経済産業省は公正取引委員会に働きかけ同業者間の緊急対応を認めさせた▼原料確保に腐心したのは塗料各社。製品の差別化を進めた一方で、特殊な顔料や添加剤の供給リスクが表面化。輸入品への切り替えなど新たな調達先の確保に追われた▼前例がない輸送ルートで急場をしのいだ例も少なくない。電解製品、産業ガスなどは物流コストがかさむだけに地産地消が基本なためだ。せっかくローリーが確保できてもガソリン不足で走らせられないこともあった▼今もサプライチェーンを巡る問題は化学を含めさまざまな業界で起きている。自然災害、パンデミック、サイバーテロなど不測の事態はいつでも起こり得る。これまでの教訓を生かしながら努力を続けていくほかはないのだろう。(21・6・18)

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