今年、無形文化財の登録制度が新たに設けられた。重要無形文化財には指定されていないが、保存や活用のための措置がとくに必要とされるものが対象で、「書道」とともに「伝統的酒造り」が登録される運びとなった▼文化庁の資料をみると、伝統的とは近代科学が成立する以前から造り手の経験の蓄積によって築き上げてきた「手作業のわざ」を指す。登録の要件として原料処理、麹づくり、醪(もろみ)の発酵管理の3点について定めている▼原料処理は米または麦の水分調整を行い、蒸しによって酒造りに適した状態にする。麹づくりでは黄こうじ菌など伝統的なアスペルギルス属の菌を用いて、木蓋、木箱(もしくはそれに準じた機能を持つ器具)を使う。そして酒の前段階となる醪づくりでは並行複発酵を行うとしている▼並行複発酵は麹に含まれる酵素ででんぷんを糖化しながら、酵母によるアルコール発酵を行う。単発酵のワイン、麦汁に酵母を加えて発酵を行うビールとは異なり発酵の進行を高度に調整する能力が要求される。これによって醸造酒でもアルコール度数を比較的高くできる▼わざの源流は奈良時代に遡るとされ、播磨国風土記ではカビを用いて酒を醸したとの記述が登場する。伝統を振り返りながら秋の夜長に「ひやおろし」を堪能するのも悪くはない。(21・10・22)

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