緊急事態宣言が解除され、2週間以上が経過した。テレワークの有効性や課題を認識した多くの企業はウィズコロナを前提とする新しい働き方を検討しつつあるが、新入社員研修も「ニューノーマル」への模索が始まっている。

 連結従業員数約4万人を擁する住友化学。単体では毎年、定期採用で200人強、経験者採用で100人ほどが入社するが、このうち総合職は100~150人で、今年度は136人の総合職が入社した。通常、4月初めの入社式は東京本社で一堂に会し開催するが、今年はコロナ感染拡大を受けウェブ配信に変更した。

 従来は入社式の夜、晩餐会を開催する。テーブルごとに分かれて座る経営幹部と直接会話する初の機会となるが、記憶に埋め込まれる可能性が高い。実際、岩田圭一社長は今年の入社式で「私が入社した38年前、会社トップが話した言葉を忘れたことがなく、会社生活の指針の一つになっている。それは『君たちの競争相手は会社の同僚ではなく、世界の同業各社の若者である。世界を相手に戦っていることを常に忘れないでほしい』というものだ」と述べている。

 通常は晩餐会の後、本社で1週間研修し、さらに1週間の合宿研修も経験する。総合化学の同社には、総合大学のほぼ全学部の卒業生が入社するため、「他産業にはない専門性の高いダイバーシティが形成される」(新沼宏取締役専務執行役員)特徴がある。とくに合宿研修は「新人同士で語り食事し、同じ時間・場所を共有することで、新たな価値を育んでもらう貴重な場」(同)となる。

 しかしコロナにより、今年はこれらすべてをスキップせざるを得なくなった。配属先の本社、工場、研究所に分かれ、早速OJT(職場内訓練)が進められている。136人のうち、本社が約30人、工場が約40人、残りが研究所だ。ただ工場や研究所は通常通り操業しているが、テレワークが進んでいる本社に配属された新入社員はOJTが難しい。

 そこで同社は初めて、新人研修の一環として全総合職に課題図書を付与した。会長、社長、役員8人、監査役(常勤)2人の計12人の経営幹部が推薦する全49冊から選び、感想や意見をチャットに載せ、それに対し推薦した経営幹部や所属長が意見や自身の成功体験・失敗談などを書いてやり取りする取り組みだ。この感想共有・意見交換の「場(グループチャット)」は4月27日から6月末まで設置する予定。尖った新人は経営幹部に異を唱えるケースも少なくないという。しかし新沼専務は「上下隔たりのない談論風発が当社の文化の一つ。自由な議論が会社を成長させる」と歓迎する。

 感想投稿の多い推薦図書は「ファクトフルネス」「次のテクノロジーで世界はどう変わるか」「スパイス、爆薬、医薬品-世界史を変えた17の化学物質」「脱プラスチックへの挑戦」「人を動かす」「失敗の本質」など。また、推薦図書のなかに1冊だけコミックスがあるが、これは漫画好きの十倉雅和会長が推薦する「火の鳥(未来編)」だ。

 コロナによって従来型の新人研修は実施できないが、新沼専務は「新人研修の意義をみつめる良い機会になった」と前向きにとらえる。課題図書を通じ、「世界が大きく変わろうとしている。化学を通じてどんな世界を描けるのか、新人には会社に入ってからも高い視座で学び視野を広げてほしい。そして上下関係なく広く議論する文化を受け継いでほしい」と期待を込める。

 コロナの状況次第だが、9月末をめどに集合研修を実施する計画。OJTも強化する。OJT担当員と上司のチームリーダーが指導役となるが、新人のモチベーションをどう上げるかなど指導員の研修もウェブを通じ行っている。さらに新沼専務は「次なる施策も考えたい」としている。例えば先輩が新人をサポートしたり相談役となるメンター制度だけでなく、若い人が年配者にデジタル技術・社会といった新しい考え方や情報を伝えたり助言するリバース・メンタリングだ。大変化の時代にあって、従来の発想にとらわれない若い潜在力がイノベーションのドライバーになる可能性が大いにある。談論風発を進化させ、新たな価値創造に挑戦しようとしている。(渡邉康広)

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