半導体不足に端を発した自動車の減産ドミノと同じ事態が、医薬品でも起きかねない状況にある。生命に直結するだけに、自動車よりも深刻に捉えるべき問題かもしれない。

 自動車と医薬品は産業構造が似ている。医薬品の有効成分は人類の皆に効果が見込める国際商材。グローバリゼーション進展にともない水平分業型のサプライチェーン(供給網)が世界規模で作られてきた。最先端の医薬品は欧米のシェアが高く、廉価な原薬や中間材は中国やインドに生産が集中している。

 そのサプライチェーンの歪みや綻びが目立ち始めた。EU(欧州連合)は域内で製造される新型コロナウイルスワクチンの域外輸出について事前許可制を導入した。接種率が欧州よりも高い国には供給を停止するという。日本で唯一薬事承認されている米ファイザーのワクチンは欧州で作られており、円滑な供給が続くか保証されていない。

 コロナが世界に広まった昨年3月、インド政府はコロナへの有効性が報告されていた抗マラリア薬の輸出を止めた。また今月11日、世界で緊急使用許可や承認が進むコロナ薬「レムデシビル」を輸出禁止にすると発表した。感染拡大が深刻な自国を優先するという背景があるが、身勝手な振る舞いは世界に供給懸念を招きかねない。

 最近、最先端のバイオ医薬品の製造資材不足も問題になっている。コロナワクチンの需要が突如発生し、細胞培養に使う培地や設備が世界的に足りない。製薬会社や製造各社の資材の奪い合いに発展し、計画通りワクチンを製造できない。コロナ以外のバイオ医薬品の生産も停滞し、資金力に乏しいベンチャーや大学が進める新薬の開発が遅れる懸念が指摘されている。

 抗生物質の原薬や中間材の生産地が中国に集中していることは、古くから国際的な問題として取り沙汰されてきたが、解決策を一向に見いだせない。高齢化が進む多くの国は先端医療を受け入れる一方、膨らむばかりの医療財政を減らさねばならず、特許の切れた医薬品は緊縮化のやり玉に挙げられやすい。その結果、日本ではシェアや利益を追求しすぎた後発薬企業の不祥事が相次いだ。

 製薬会社の勢力図は、おそらく自動車ほど大胆には変わらない。新薬開発の難易度は高く研究開発費の上昇は続く。いまさら企業主導で垂直統合型にビジネスモデルを転換するのは困難だろう。しかし「医療は国防」であることをコロナが改めて突きつけた。有望な成長産業という視点も変わらない。国の支援のほか、国際協調を通じて垂直統合を模索する必要がある。

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

社説の最新記事もっと見る