化学大手は、コロナ後を見据えた成長投資をにらみつつ、コロナ感染拡大による足元の不測の事態への慎重姿勢を崩していない。2020年度の設備投資は、不透明な状況が当面続くとみて、三菱ケミカルホールディングス(HD)、旭化成、住友化学、東ソーが未定としている。ただ、おおむね前年度並みの予算を組む企業が多く、中長期の成長に向けた積極姿勢は維持している。リーマンショックを乗り越え、ポートフォリオ改革と財務基盤強化を進め稼げる体質に変貌したが、リーマンショックを上回る未曾有の危機がもたらす影響は計り知れず、予断を許さない状況が来年以降も続く恐れがある。とくに自動車関連や石油化学はさらなる損益悪化を避けられそうにない。各社とも投資を絞り込み、場合によっては延期しつつ、未来への成長の灯火は絶やさない難しい舵取りを余儀なくされる。

 「景気がコロナ前に戻るのは早くても来年夏以降ではないか」(旭化成の小堀秀毅社長)、「今期下期(10~3月)もコロナ前に完全に回復する設定ではない」(三井化学の橋本修社長)。化学大手はコロナショックによる影響を見極めようとしているが、ワクチンや治療薬の開発にいぜん時間を要するなか、緊急対策として手元流動性を高め備えを堅くしている。

 今期上期(4~9月)は純利益ゼロを予想する三菱ケミカルHD。コロナ感染拡大の影響が重くのし掛かるほか、自動車や半導体など主要ユーザーの低迷が追い打ちをかける構図だ。こうしたことから今期の設備投資計画は現時点で未定としており、「たとえば1年遅らせてもデメリットが大きくない案件は遅らせる方向で検討するなど精査していく」(伊達英文取締役執行役常務・最高財務責任者)方針だ。

 同様に、設備投資計画を未定としている住友化学は、今期の不確定減益要因として200億~500億円を見込み、このうちコロナの影響による減益150億~350億円を織り込んでいる。売り上げの約4割を占める医農薬はほとんど影響を受けないが、自動車関連需要の減退による樹脂の出荷減少や市況下落、車載電池・タイヤ部材の出荷減少、ディスプレイ関連需要の減退によるスマートフォン・テレビ部材の出荷減少が下押し圧力になる見通しだ。佐々木啓吾常務執行役員は「コロナの影響はとくに自動車関連、ディスプレイ関連に響く。収束するまで続く可能性がある」と警戒感を強める。

 今期の設備投資計画1220億円を公表した三井化学。前期実績は763億円だったが、今期から国際会計基準(IFRS)に移行するため、定修費用などが設備投資として資産計上され、この分で290億円を占める。コロナ感染拡大が本格化する以前の当初計画ではこの290億円を含め1350億円を計画していたが、橋本社長は「リセッションに対する緊急対策として130億円削減し1220億円に計画を変更した。ただ、この計画が絶対ではない。さらに案件を厳選し、案件によっては延期も検討する」と強調する。

 とくに市況低迷が長引き、今期の損益を悪化させそうなのが自動車関連と石化だ。今年の世界の自動車生産台数は少なくとも前年比2割減の7300万台に落ち込む見通し。各社はこの2割減を前提としており、三井化学はモビリティ事業の今期コア営業利益を36%減の275億円と予想している。一方で、同社のモビリティ事業には、スマホのカメラ多眼化や運転支援システム高度化にともなう車載カメラ向け拡大により好調な光学樹脂「アペル」がある。また自動車向けガラス中間膜で世界トップシェアを占める積水化学工業のように、ヘッドアップディスプレイ(HUD)向けで自動車メーカーによってはシェア100%を占めるなど、差別化製品が好調な企業もある。ただ自動車市場全体の回復は想定より遅れる可能性があり、世界生産台数が2割減にとどまらないケースも懸念され、各社は警戒を強めつつある。

 石化も低迷が長引きそうだ。三菱ケミカルHDは今期、石化事業でコア営業損益130億円の赤字を予想するほか、三井化学は基盤素材事業のコア営業損益115億円の赤字を予想する。世界市場でみると米国や中国、中東などで供給が増えるなか、需要はコロナ前から低迷しており、コロナが追い打ちをかける状況だ。巣ごもり需要など一部包装材などは堅調だが、景気低迷による影響は大きく、さらに原油・ナフサ価格急落によるマージン縮小が重くのし掛かる。三井化学が今年度中に再構築策を固める方針など、各社は立て直しを急ぐ必要に迫られている。(渡邉康広)

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