明治から昭和にかけて活躍した日本初の職業漫画家である北沢楽天。新聞や雑誌で政治風刺漫画を数多く描き、後進の育成にも力を入れたことから「日本近代漫画の祖」とも言われる▼政治や庶民の暮らしを鋭く、ユーモラスに描く作品は人気を博した。手掛けた漫画は手塚治虫や長谷川町子などにも大きな影響を与えたという。住んでいた邸宅・敷地は遺族により現在のさいたま市に寄付され、その後、「漫画会館」として運営されている▼新型コロナウイルス感染拡大防止の流れで臨時休館となる前には、近代国家として歩む日本の庶民と税金に関する楽天風刺漫画の特別展が催された。明治時代の地租改正に始まり通行税や織物消費税、酒造税など、税金に対する庶民の悩みや苦しみを時代に合わせて風刺している▼デジタル化の急速な普及で新聞や雑誌など紙媒体離れが叫ばれて久しい。ましてや在宅勤務の浸透で、会社にしか置いていない専門的な新聞や雑誌を読む機会は減り、デジタル媒体の魅力が一気に増すだろう。紙離れにつれて風刺画の先行きも少し心配ではある▼緊急事態宣言が延長され、これによって経営面でさらに影響が増す事業者への支援策、さらに出口戦略も今ひとつハッキリしない。楽天が生きていたら、今の政治と庶民の関係をどう描いてくれるだろう。(20・5・14)

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