コロナ禍における市場の悪化から立ち直り、事業環境は好転の兆しをみせている。自動車や半導体関連の旺盛な需要などを背景に、多くの化学各社は2021年3月期業績を上方修正するところが相次ぐ。ただ、この動きが継続し他の産業にも波及するのか判断が難しく、先行き慎重な見方も多い。一部の業種に偏った市場成長に惑わされないよう注意が必要だ。

 コロナ感染拡大にともなう景況悪化から昨年4~6月の実質GDP(国内総生産)は歴史的な落ち込みをみせたが、その反動で7~9月、10~12月とも2ケタ成長を示した。Go To トラベルやGo To イートなどが個人消費を押し上げたが、今年1月には再び緊急事態宣言が発令され1~3月はマイナス成長が必至とみられている。

 一方、東京株式市場で先月、日経平均株価が1990年8月以来、約30年半ぶりに3万円台を回復した。コロナワクチン接種にともなう経済正常化の期待や、海外勢による大幅な買いが背景にあり、それだけの実態がともなわない。それでも実際に半導体や自動車などの生産は上向き、化学企業も昨年後半から業績が回復している。

 コロナ禍での「新たな生活様式」はビジネスチャンスをもたらす。化学各社が期待するのは抗菌・抗ウイルス製品といった衛生関連分野、非接触需要の高まりを背景としたセンサー関連材料、食品包装関連などの「巣ごもり需要」に対応した製品開発などだ。テレワークの普及でパソコンなど通信機器の需要が伸び、半導体をはじめとする電子材料の生産は大幅に伸びた。

 成長が見込みにくい国内市場で事業を拡大するのは至難であり、やはり新興国を含めた海外に市場を求める方針は変わらない。コロナが落ち着けば、各社はこぞって自粛していた海外出張を解禁し、攻めの展開に入るだろう。

 ただ成長が期待される分野でも競争が激しくなれば差別化が問われてくる。現業で培った技術・経験を活用し、常にスピード感をもって市場に切り込む姿勢が重要となる。

 化学企業はここ数年、持続成長を狙ったポートフォリオ組み替えが盛んだ。そのためには大胆なM&A(合併・買収)を辞さない姿勢を示し、真に自社の力が発揮できる分野に経営資源を集中投入する。

 日本でもワクチン接種が始まり、早期のコロナ禍からの脱却が期待される。この間に得た経験はアフターコロナの世界に新たな価値観を芽生えさせるだろう。市場環境の回復期待は高まるものの、需要動向を冷静に見極める必要がある。

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