そういやぁ幼なじみと昔話をすると、やけに心が落ち着くよなぁ。「回想法」という、うつ病や認知症の予防・治療法があるということを知って、そう思った。回想法とは「自分の過去のことを話すことで精神を安定させ、認知機能の改善も期待できる心理療法」だという。昔の生活用品や写真を見たり触れたりしながら行う。米国の精神科医ロバート・バトラーが60年ほど前に提唱している▼この心理療法に地域をあげて取り組んでいるのが愛知県の北名古屋市だ。この市にある「昭和日常博物館」が今年、第1回「日本博物館協会賞」を受賞した。昭和の生活用品の展示に特化し、収蔵品は12万点以上。三種の神器などの家電、玩具、学用品などが揃う。これら昭和期の生活資料を活用し、地域の高齢者を対象とした回想法を用いた事業に早くから取り組んだことなどが受賞理由だ▼〈降る雪や明治は遠くなりにけり〉(草田男)。明治どころか昭和さえも年々遠ざかりゆくと感じるきょうこのごろ、昭和をその半分弱生きた者としては、ぜひ足を運んでみたい博物館だ。バーチャルではなく、やっぱり手に触れてみたい▼〈思ひ出は泉のごとくわきいづるこの人生を歩みきにけり〉(詠人不知)。回想にふけるのは後ろ向きなことと思われがちだが、そうとばかりも言えないようだ。 (20・10・28)

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