安倍晋三元首相の葬儀を国葬とする政府方針を巡って賛否が分かれている。日本で、これほど1人の人間の死が注目されたことは昭和天皇以来ではないだろうか▼岸田首相が、内閣府設置法のもと閣議決定を根拠として行い得ると説明しているにもかかわらず、法的根拠がないとする見方が広がっている点が興味深い。故人へのオマージュとしたいのか。安倍政権が法的根拠があいまいなまま、黒川東京高検検事長の定年延長を閣議決定したことが思い出される▼通夜が行われた増上寺の門前に集まった人々がこぞって霊きゅう車を撮影していたことが波紋を呼んだ。「なぜ手を合わせないのか」との批判があるが追悼の仕方は人それぞれ。昔は写真に魂を抜かれると恐れていたというから、スマホに故人の魂を納めたい人がいてもおかしくはない。国葬にはフォトセッションを用意する必要がありそうだ▼1月に亡くなった海部元首相の葬儀は近親者のみで行われた。近年の首相経験者では内閣と自民党による合同葬が通例だが、遺族が辞退したようだ。たとえ元首相であっても遺族にとっては家族。葬儀はその思いに即したものであってほしい。安倍元首相の場合も、遺族の心情に思いをはせることから始めよう。自戒を込めて、外野がうるさすぎる。(22・7・21)

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