赤坂に行ってきた。といっても、当地を歩き、仕事をしてきただけである。その「歩く」が心地よかった。赤坂は名にし負うだけに坂に風情がある。あちこちの樹陰も街の風格を感じさせる▼住んだり働いたりしていれば上ったり下ったりは不便かもしれないが、日本橋という真っ平らな所で働き、同じ平野の片隅で暮らしていると、あの起伏が美しくロマンティックに感じる▼人の住む土地は多くは平らである。けれども、傾斜地にも人は住み着き、そこに坂道ができる。元京大教授の中村良夫氏はその著書『風景学・実践編』で「日本の町では、道よりも坂に名をつけるならわしがある」と書いている。たしかに東京の港区や千代田区、文京区などは坂が多く、その坂名が住民や働く人の情緒のベースになっていたりする。丹後坂、江戸見坂、桜坂、富士見坂、錦華坂等々▼さて、坂の町の人々からは、下町は平らかもしれないがそれ故に、川があり、美しい姿の橋がかかっていると言われるかもしれない。日本橋浜町にある弊社からは1、2分歩けば清洲橋という優美な橋に着く。そして橋の向こうは深川である。芭蕉がこのへんから奥の細道の旅へ向かったのは有名な話だ▼坂だの川だの、ビジネスとは関わりのない話に終始した。仕事の合間のちょっとした息抜きに、ということで。(21・10・20)

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

精留塔の最新記事もっと見る