東京の港区にある化学企業の部屋から頂上部分がユニークな形の超高層ビルが見えた。取材を終えた後、そのビルの名前を尋ねると、六本木ヒルズだと教えてくれた。自分はこの有名なビルを名前だけでしか知らなかったわけだ。その後すこし、窓から見える景色について話した。この景色の中にビル建築のクレーンの姿を見かけぬことはなかったと感慨深げに語っていたのが印象に残った▼なるほどその通りだろう。弊社のある中央区の人形町・浜町地域も、自分がここに通い始めてから30年以上たつが、ビル建築の槌音が絶えることはなかった。というより、槌音が他のどの地区よりも大きかったと言えるだろう。超高層ビルが数棟建ち、ホテルもたくさん建った▼その一方、古い低層の建物がどんどんなくなっていく。人形町の繁華な場所からすぐ近くにあった「世界湯」という銭湯が閉店し、気づいたら更地になっていた。仕事納めの日、打ち上げが終わったあと、その熱い湯舟に何回かつかったことがある。味わい深く江戸花街の粋を残した銭湯だった。立山連峰と北陸新幹線が描かれた美しいペンキ絵ももう見ることができない▼これで中央区の銭湯は8軒になったという。これはちょいと調べて、入浴はしないまでもその外観くらいは実際にこの目で確かめておこうと思った。(20・10・7)

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