日本の化学企業は新型コロナウイルスによる市場の変化を柔軟に取り入れながら、従来から目指す成長戦略を推し進める。化学工業日報社が主要な化学企業の社長を対象に実施したアンケートで、多くがその姿勢を強調した。ただ、現在取り組んでいる経営計画については、何らかの形で見直すか見直しを検討している企業は74%に上った。ニューノーマル(新常態)を迎えるなか「真に社会にとって必要な企業かどうかの選別が進むだろう」(デンカ・山本学社長)、「まさに経営力が問われる時代」(東海カーボン・長坂一社長)との覚悟も示された。化学企業のトップには、コロナの状況を見極めながら持続成長に向けて難しい舵取りが託される。

 新型コロナ感染拡大は、化学企業の経営に大きな影響を与えた。各社長に事業環境がコロナ禍前の水準に回復する時期を聞いたところ、戻らないや予測不可能との意見を合わせて96%が年内の回復は困難と答えた。「2021年の4月頃」と「21年10月頃」が最も多く同数の9人だった。回復しても業種や地域によりまだら模様とする意見が多かった。ワクチンや特効薬が開発されるまで経済と感染拡大防止の両立を目指す動きが続くほか、回復後に成長する市場もあれば縮小したままの市場もあるとの指摘があった。「コロナ禍前には戻らない」は7人が回答した。

 回復に向けた懸念材料(複数回答可)としては、コロナの第2波、第3波の状況を心配する声が47人、自動車や電機・電子など生産がストップした産業の回復の遅れを懸念する声も46人と多かった。コロナ前から世界経済に影響を与えていた米中貿易摩擦の成り行きも35人が懸念を示した。

 掲げている成長戦略について(複数回答可)聞いたところ、「目指す姿に変更はない」が37人で最も多かった。続いて「社会課題を解決するソリューション型ビジネスに一層重点を置く」(23人)のほか、この間に重要性が増したヘルスケア関連、テレワークの進展などをにらんでICT関連事業の拡充を図る考えが示された。「環境・エネルギー分野で新機軸を打ち出す」が16人おり、従来から掲げる成長分野への事業展開は踏襲される。ありたい姿を再設定するとともに、成長戦略の再構築を進めるとの意見もあった。

 現在進めている経営計画について、13人が「見直さない」と答えた。「全面的に見直す」は3人で、目標数値のみ見直す(9人)、または行動計画のみ見直す(4人)。見直しについて「検討中」も13人にて、市場環境変化への対応策を講じる必要があると考えている企業トップは多い。経営計画が最終年度を迎えている企業の中では、ウィズコロナを考えたアクションプランを追加していく意見も示された。

 「コロナ禍前後で化学産業の果たすべき役割は変わらない。むしろ、化学産業の間口の広さが再認識された」(住友化学・岩田圭一社長)と、化学産業の役割が増すとの見方も多かった。その中で「価値観が根底から変わったこと、変わらないことを見極めながら新しい経営スタイルを模索する段階に入った。その答えをいち早く見つけられた企業がコロナ後の世界で残っていくだろう」(DIC・猪野薫社長)とし、迅速な対応力がカギを握ると指摘する。

 アンケートでは、コロナショック後の新しい生活様式・ニューノーマルにどのようなビジネスチャンスがあるか(複数回答可)も聞いた。「衛生関連分野への参入や拡充」が26人で最も多く、「非接触需要の高まりを背景にセンサー関連材料の成長に期待」も25人、食品包装関連など「“巣ごもり需要”に対応した商品の拡充」は21人だった。海外におけるサプライチェーンの寸断といった影響を念頭に「国内生産回帰による国内の素材需要の拡大」を期待する回答も24人いた。

 そのほか、テレワークの増加による通信環境整備として5G(第5世代通信)市場が前倒しで立ち上がったり、物流体制の再整備によるドローン物流、自動走行、ロボットの開発、蓄電池の普及が前倒しになるとの見方があった。また、リモートワークの拡大・定着化にともなうエレクトロニクス関連の需要増、健康への関心の高まりからメディカル・ヘルスケア関連分野、また抗菌・抗ウイルス製品の需要拡大といった意見もあった。

 今後、どの分野に経営資源を投じるか(複数回答可)を聞いたところ、「成長分野の設備投資」が42人で最多。事業の成長ドライバーを確保するために必要な投資であり、掲げる成長戦略を実行するうえで欠かせない取り組みと位置づけている。次いで「デジタルトランスフォーメーション(DX)」(36人)で、世界がデジタル化を利用したシステムに急速に移行するため遅れられないといった理由が挙がった。

 その後は「新規事業育成」(33人)、「事業の構造改革」(31人)、「働き方改革」(同)。新規事業育成は、新常態における社会のニーズにマッチした事業と新製品開発、また外部環境に左右されにくい事業ポートフォリオの構築などが理由。事業の構造改革は、さまざまな課題が重くのしかかり先延ばしがちになるため、対策を講じることなどが狙い。

 回答者の多くがウィズコロナでDXなどが急速に普及すると指摘。それにともなう「新たなニーズや産業構造変化、国民の安全を最優先するための医療、医薬、ヘルスケア事業の成長の加速、自国の安全、利益優先が強める保護主義への対応を強く意識し、今後の戦略を組み立てる必要性を感じている」(三菱ケミカルホールディングス・越智仁社長)など、多様な角度から判断する力がトップに問われてくる。

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