その無垢で気高く凛とした姿に強く焦がれた。私には不相応で、憧れの対象に過ぎないと自覚していた。しかし、もしやいつかは、の希望が心のどこかにあった。葛藤を隠しつつ、人知れず幾つもの切なく苦しい夜と満たされぬ日々を積み重ねた。そして、いつかきっと、必ずと思うようになっていた▼そんなある日、彼女は不意に私に微笑み、そっと手を差し延べた。淡い希望は突然、自信に変わった。彼女を射止めるだけの資格が自分にはあったのだ、それだけの努力もしてきたのだ。歓喜のなかで彼女の手をつかんだ。温もりも確かにそこにあった。しかし一気に引き寄せようと力を込めたその瞬間、彼女は私をすり抜け、姿を消した▼彼女の正体は、その分野で最高の仕事をする者を祝福する女神、あるいは理想の自分、あるいは人生の意味。傲慢で我武者らだった若い頃はいつもすぐ近くにいて、頑張れば捕まえられると感じていた。そして、ほとんど捕まえたと勘違いしていた。だがその後は、徐々に手の届かない存在になっていった▼彼女の祝福を受けるには、私には何かが足りなかった。それが何なのか教えてはくれない。しかし、足りないなりに努力すれば良い。そうだと分かった。いつかまた、私に微笑んでくれる日が来るかも知れない。それまでじっくり待てば良い。(20・7・28)

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