宇部興産は2050年を目標年とする長期環境ビジョンを策定した。50年までに温室効果ガス(GHG)排出量の80%削減を目指すことなどを盛り込んだ。泉原雅人社長は20日の電話会見で「環境問題は事業構造を変える1つの契機であり、時代の変化を先取りする」と説明。世界的に「脱炭素」の機運が高まる中で、事業構造の再構築によって成長と環境配慮が両立するビジネスモデルの確立を目指す構えだ。

 新たに策定したのは「UBEグループ環境ビジョン2050」。脱炭素社会の実現に貢献するため、事業活動で排出されるGHGを減らすとともに、自社製品・技術によりサプライチェーン全体のGHG削減を目指す内容だ。

 宇部興産はセメント、アンモニアなどエネルギー多消費型の事業を持ち、製造プロセスに由来する「非エネルギー起源」がGHG排出量全体の5割近くを占める。泉原社長は「これまでエネルギー起源のGHG削減に最大限努力してきたが、今後は非エネルギー起源を含めて80%削減を目指す」と述べた。

 長期環境ビジョンにあわせて、中期的な環境目標も策定した。30年度までにGHG排出量を13年度(年1280万トン)比で17%減らすほか、環境貢献型製品・技術の売上高比率を50%以上に高めることを目指す。GHG削減目標のセグメント別内訳は化学部門が20%、セメントなどの建設資材部門が15%で「技術、コストの裏付けがある実現可能な積み上げ目標であり、さらなる上積みを図る」(泉原社長)とした。

 目標上積みのための施策として、説明資料には▽一層の省エネ推進によるエネルギー原単位改善の継続・強化▽廃棄物のエネルギー化促進と再生可能エネルギーの利用拡大▽CO2回収・利活用技術の開発、ビジネス創出に注力――といった項目が並ぶ。その中で、1つだけ太字にして強調したのが「化石資源に依存する事業構造の再構築を視野に入れた施策の検討」だ。

 電話会見の中で、泉原社長は「中期経営計画で掲げる『スペシャリティー化』を進めることで、結果的にエネルギー多消費のバルク製品の割合が小さくなる、場合によって事業の縮小・撤退が起こるかもしれない。ただそれが我々が進むべき道だ」と語った。

 21年度までの現中計では、設備投資・投融資、研究開発費の合計が3年間累計で2050億円と前中計比で24%増やした。設備投資・投融資の57%、研究開発費の84%を中核の化学部門、その中でも成長分野の「積極拡大事業」や「育成事業」に振り向ける方針を掲げた。

 新型コロナウイルスの感染拡大もあり厳しい経営環境だが、泉原社長は「コロナ収束後に早く走り出せるよう成長の施策を打っていく」と言及。将来に向けた投資の手綱を緩めない姿勢を示した。

 実際に20年度の事業戦略でも、リチウムイオン2次電池(LiB)用電解液や合成樹脂の原料などに使う「炭酸ジメチル(DMC)」といったファインケミカル製品の北米工場新設、フレキシブル有機ELや液晶パネルの回路基板などに使われるポリイミド材料も増産を検討する。ナイロン樹脂は川下展開の強化に向けて、大阪府堺市にある研究開発拠点「大阪研究開発センター」にコンパウンド(成形材料)の技術陣を集めて開発機能を手厚くする。

 ベーシックケミカル事業でも、例えばタイヤ向け合成ゴム「ブタジエンラバー(BR)」では「VCR(ビニルシスラバー)」と呼ぶ特殊品を世界3極で生産できる体制を整えるなど、スペシャリティー化を推し進める。

 同社は25年頃までに全社利益の約6割をスペシャリティー事業で稼ぐ利益構造への転換をあるべき姿として描く。泉原社長は「スペシャリティー化で事業の安定性と成長性を高めることで、GHGの排出削減につながる方向を目指す」と述べた。事業構造の改革によって成長と環境配慮の二兎を追う戦略だ。

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

HP独自・先行の最新記事もっと見る