宇部興産は電子・通信機器の半導体などが発する熱を効率良く逃がす高熱伝導性の放熱材料を開発した。銅とグラファイト(黒鉛)の複合材料で、熱伝導率は放熱基板やヒートスプレッダー(放熱板)などに使う窒化ケイ素、窒化アルミニウムの約3倍、銅の約2倍。スマートフォンなど小型電子機器の高性能化、自動車や家電製品の電装化、高速・大容量の5G通信の普及にともなって放熱対策のニーズは高まる。半導体や電子機器関連メーカーに採用を働きかけ、2022年度の事業化を目指す。

 独自の焼結技術を持つ自動車部品加工のアカネ(広島市)と共同開発した。熱伝導率は800ワット/メートル・ケルビンで、「世界トップレベルの値」(宇部興産)という。

 金属などの粉末を焼き固めて自動車部品などを作る焼結技術の一つに電流を流して加熱する「通電焼結」があるが、上下の一方向から加熱加圧する手法が一般的。これに対し、アカネが持つのは上下方向で加圧、水平方向で加熱する「多軸通電焼結」と呼ぶ技術だ。

 多方向から熱と圧力を加えるために粉末をムラなく焼き固めることが可能になる。黒鉛の結晶がきれいに並んだ構造の焼結体に仕上がることで、高い熱伝導性が発現する。

 性能面の特徴は、ほかにもある。柔らかい金属である銅を配合しているために曲げなどの加工性に優れ、比重も窒化ケイ素や窒化アルミニウムと同水準まで軽くなる。熱膨張率も両材料や半導体材料のシリコン、次世代パワー半導体材料の炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)に近い。放熱材料としてこれらと接合した際に、熱膨張率の差によって剥離するなどの不具合が減らせる。

 宇部興産は開発品について、20年度初めからサンプル品の提供を始めている。電子・通信機器の発熱源とヒートシンク(放熱器)の間に挟んで熱を垂直方向に逃がす放熱基板、熱を水平方向に逃がすヒートスプレッダーなどの材料用途で需要を見込んでいる。高熱伝導性の材料を用いることで放熱設計に余裕が生まれ、デバイスの小型化・薄型化やデザインの自由度が高められるといった利点を訴求する。

 富士経済は放熱基板を含む放熱部材の世界市場は23年に3214億円と18年比で25・8%増えると予測する。自動車の電動化や自動運転技術の普及、5Gへの移行により、放熱部材の需要は一段と拡大する。

 顧客からのヒアリングをもとに用途に合わせた材料の作り込みや仕様を固めるのと並行し、アカネとの間で量産装置の検討も進める。宇部ケミカル工場(山口県宇部市)を有力候補に開発品の量産体制を整える計画で、まずは22年度に売上高年1億円を目指す。

 宇部興産は外部の知見や技術を活用して新規事業を創出するオープンイノベーションを加速させている。18年にオープンイノベーションの推進組織「価値創出グループ」を設立し、今年9月には農林水産分野のスタートアップなど2社への出資を発表した。

 価値創出グループが重点領域とするのが農林水産など1次産業関連と、熱をコントロールする「熱マネジメント」。その成果の一つが今回の高熱伝導性の放熱材料だ。価値創出グループと研究開発本部のメンバーが推進役となり、共同開発の動き出しから1年強でサンプル提供に乗り出した。早期の収益化に向けて、ここからアクセルを一段と踏み込む。

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熱伝導率は窒化ケイ素、窒化アルミの約3倍

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