国内の石油化学プラントで春の「定期修理(定修)シーズン」が本格化している。新型コロナウイルスの感染拡大や緊急事態宣言の発令を受けて、今年は直前までスケジュールや感染防止対策に頭を悩ませた企業も多い。緊急事態宣言は5月25日に全面解除されたが、定修の現場では新型コロナとの共存を見据えて試行錯誤が行われている。定修の今に迫った。

 新型コロナの影響がいち早く表面化したのが、茨城県神栖市の鹿島東部コンビナートだ。茨城県の大井川和彦知事が4月13日の会見で県民に外出自粛要請を呼びかけるとともに、同コンビナートで定修を計画する企業に対して開始時期の変更や水際対策を徹底するよう要請したことを明らかにした。
 鹿島東部コンビナートでは当初4月20日~7月26日まで97日間で定修を実施する計画だった。県や地元神栖市の要請を受けて開始時期の後ろ倒しと期間の短縮を検討し、最終的に5月12日~7月31日まで80日間で行われることになった。定修に携わる作業員の延べ人数も、当初計画の32万6000人から22万6000人、ピーク時の1日当たりの人数も9500人から5600人と大幅に減らした。

直前まで固まらず

 立地企業で構成される「鹿島東部コンビナート定修対策本部」によると、今回の計画が最終的に固まったのはゴールデンウイークが明けてからと、定修が本格化する直前まで詳細が固まらない異例の事態が続いた。そのなかで「各社とも工事量を相当減らしたり、来年に先送りしたりと定修の内容や規模の見直しに取り組んだ」(同対策本部)ことで、薄氷を踏む展開となったものの5月11日になり新たな工事スケジュールの発表にいたった。

 神栖市によると、定修開始前日の11日までに地元住民などから100件を超える意見が寄せられたという。そのなかで同市は翌12日に石田進市長名で定修に関する声明を改めて発表。県やコンビナート立地企業と協議検討を経てスケジュールが変更されたことを踏まえ「これ以上の延長はコンビナートでの危険物の漏洩・火災・爆発などの事故リスクの観点から難しいと判断された」とし、新型コロナの感染拡大防止対策を徹底した上で定期修理を実施するとコメント。地元住民に理解を呼びかけた。

 定修の実施期間中、作業員の健康状態の把握、感染防止対策、行動自粛の徹底などの方策を実施することも、県や市との協議の中で確認された。実際に定修が始まった現在、「地元住民からの意見は2~3日に1件寄せられる程度」(鹿島東部コンビナート対策本部)と、地域は落ち着きを取り戻しつつあるようだ。一方で、定修期間の短縮によって本来行われるはずだった工事が来年以降に持ち越される形ともなり、現場からは「何らかの形で影響が出るかもしれない」(同)と懸念の声も挙がっている。

“県外”は対策要請

 山口県周南市の周南コンビナートでも県や地元周南市から立地企業に対して定修に関する要請が出された。

 新型コロナ感染者の増加が顕著となった4月15日、県は村岡嗣政知事名で大規模定修などを予定する県下の複数企業あてに「定期自主検査等における新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた対応について」と題する文書を送付。その中で、やむを得ず県外から作業員を受け入れる際は関連事業者との間で感染防止対策を採ることを求めた。

 県に続く形で周南市も5月1日、市内に立地する17企業で構成される「周南地区コンビナート保安防災協議会」に対し、藤井律子市長名で同様の文書を送付した。

 化学工業日報が入手した文書によると、市が企業側に要請したのは主に「県外、とくに特定警戒都道府県からの作業員などの受け入れ抑制」「来市2週間前からの健康状態、行動記録の確認」などの水際対策。それと「作業期間中における作業員の健康状態の把握、感染防止策」「外出などの行動自粛の徹底」などの感染拡大防止策の実施だ。

 これを受けて周南コンビナートでは、東ソーが事前に準備していた新型コロナ対策を踏まえて、ゴールデンウイーク明けからカ性ソーダや塩化ビニルモノマーを生産する南陽事業所の定修に入った。定修は当初予定通り6月中旬の完了を見込んでいる。

 感染者を出さないことを最優先にする南陽事業所が主眼に置く対策が、入構条件の厳格化だ。構内に入る際の検温を義務付けて、一般的な体温基準より厳しい37度C以上なら入構不可となる。また14日間前に海外渡航や発熱があった場合も入構できない。入構が許可された作業員は不要不急の会議・会食や対面業務は行わないほか、基本的な手洗い、消毒、換気、他者との距離確保を徹底することが求められる。

定修の現場では徹底した新型コロナ対策をとった上で工事が進められている(東ソーの南陽事業所)

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